たまトザ第4回公演
落ちたらキケン
作・演出 坂本みゆ
(後半)
【CAST】
 柏木タマキ/
壱智村小真
東堂マリ/
池田美貴子
九鬼ノブオ/
臼井武史
松田ナオ/
扇谷あさ子
瑞江マサヤ/
寿福伸也
柏木カイ/
十河宏明
西野川コウ/
月江元
渋沢エマ/
中條志保
大町サクラ/
南久松真奈


6.風見鶏【エマ・ナオ・ノブオ・マサヤ】

オフィス。
マサヤ、ぐったりした様子。
ノブオが大きな風見鶏を持ってくる。
自分のデスクに置いてご満悦。
マサヤはノーリアクション。
ノブオ、風見鶏を手に徐々にマサヤに近づく。


ノブオ「瑞江君、元気が無いねぇ」

マサヤ「生きる気力を吸い取られました」

ノブオ「そりゃ大変だ。何で?」

マサヤ「え?」

ノブオ「何で吸われたの」

マサヤ「道具?」

ノブオ「どんな機械で吸われたの」

マサヤ「機械って言うか、圧力って言うか……」

ノブオ「圧力?(興味深々)」

マサヤ「もういいです。気にしないで下さい」


ノブオ、一旦気にしない振りをするが、振り向いて。


ノブオ「……夜寝られなくなったらどうしよう」

マサヤ「そんなこと言われたら、僕の方が眠れなくなりますよ!」

ノブオ「お、勝負する?」

マサヤ「しません。僕は寝ます」

ノブオ「嘘つきだなぁ」

マサヤ「こんな人ばっかりだ!」

ノブオ「(わざとらしく)……おんやぁ?」

マサヤ「今度は何ですか」

ノブオ「いや、風が……」

マサヤ「風?」

ノブオ「へぃっくしょん!」

マサヤ「……そっちですか」

ノブオ「いやいや、風がね。(マサヤの机に風見鶏を置いて、吹く)……ほぉら」

マサヤ「今、自分でやりましたよね。さっきから気になってたんですけど、何ですか、これ」

ノブオ「風見鶏だよ。知らないかね?」

マサヤ「知ってますよ。風見鶏が何で僕の机に置かれるんです。邪魔じゃないですか」

ノブオ「邪魔? これが? ……あああ(崩れ落ちる)」

マサヤ「え、部長?」

ノブオ「これはね、ただの風見鶏じゃないんだよ。特別なんです」

マサヤ「特別?」

ノブオ「思い出の品と言うか……。娘のカタミでね」

マサヤ「え、部長の娘さんって……」

ノブオ「先月、ね……。あああ……」

マサヤ「あ、いいです、無理に言わなくても。そうですか、思い出の……」

ノブオ「(風見鶏を吹く)ふーっ。ははっ、こうしてるとあの子の笑顔が浮かぶねぇ。君はどうだい?」

マサヤ「いや、僕は知らないので……」

ノブオ「風見鶏を?」

マサヤ「娘さんをですよ!」

ノブオ「あ、そっち」

マサヤ「そっちしかないでしょう(風見鶏を避けようとして書類を落とす)……ああっ!」

ノブオ「ほらほら、風のいたずらだ」

マサヤ「(書類を集めながら)……楽しそうですね」

ノブオ「いいえぇ」

マサヤ「そう見えますよ」

ノブオ「目に見えるものが全てだと思ってはいけないよ。……ふふっ」

マサヤ「あ、笑った」

ノブオ「うん?」

マサヤ「笑ったでしょう、今」

ノブオ「私が?」

マサヤ「何、『そんなバカな』って顔してるんですか。笑いましたよ。何がおかしいんですか」

ノブオ「何が。何がって……、(マサヤに)何が?」

マサヤ「聞いてるのは僕の方です」

ノブオ「おやおや」

マサヤ「(ため息)全く、話にならないですよ」

ノブオ「失礼だなあ」

マサヤ「失礼なのは部長ですよ、笑ったクセに」

ノブオ「何を?」

マサヤ「僕をですよ!」

ノブオ「ええ? 笑われた? そりゃ酷い。――で、誰に?」

マサヤ「誰でしょうねえ!?」

ノブオ「いかんよ、泣き寝入りは。さあ、今こそ勇気を持って告発するんだ。君を陥れようとしているのは誰だ。本当の賞味期限はいつなんだ。赤福はいつ食べるのが美味いんだ!」

マサヤ「あんたバカでしょう!?」

ノブオ「あ、言ったね」

マサヤ「え」

ノブオ「今、上司の私に『バカ』って言ったね」

マサヤ「いや、それは部長が先に……」

ノブオ「責任転嫁は止しなさい。この耳がドカンと聞きましたよ。言ったでしょう? 言いましたね?」

マサヤ「え、あ、まあ、はい……。擬音、おかしいですけど」

ノブオ「なんて嘆かわしい事なんだ! 君がそんな人間だったとは。あんなに目を掛けてやったのに今になってこの仕打ち。今になって『バカ』だなんて……。ああ下剋上」

マサヤ「ちょっと、何もそこまで……」


ナオとエマが入ってくる。


ナオ「何騒いでんですか? 外まで聞こえますよぉ」

エマ「何だか楽しそうですけど」

ノブオ「おお、松田君。さっきはおつかいすまなかったねぇ」

ナオ「全然オッケーです。どうでした? あの大福」

ノブオ「いやぁ美味しかったよぉ。先方さんもよろこんでねぇ。どこのだい? あれ」

ナオ「あー、どこだろ。親切な人に貰ったんですよね。公園行ったらまた会えるかな」

ノブオ「公園で貰ったの?」

マサヤ「え、それお客さんに出したの?」

ナオ「ええ」

マサヤ「マズくない?」

ナオ「美味しかったんでしょ?」

ノブオ「美味しかったよ」

ナオ「(マサヤに)だって」

マサヤ「美味しいからって、どこの何だか分からないものを……」

ナオ「だーいじょうぶですよぉ。良さ気な人でしたもん。ちょっとキモかっただけで」

エマ「どっち方面に?」

ナオ「(上手を指して)あっちかな」

エマ「ああ(微笑む)」


マサヤとノブオ、ナオの指した先を見るが、分からない。


エマ「部長も召し上がりました?」

ノブオ「ああ、美味しくいただいたよ」

エマ「(マサヤに)異常ないみたいよ」

マサヤ「乱暴な確かめ方ですね」

エマ「実地が一番間違いないでしょう? それで、何を騒いでたの?」

マサヤ「あ、そうだ。エマさん、助けて下さいよ」

エマ「助ける?」

マサヤ「部長が絡むんですよ」

エマ「まあ」

ノブオ「か、絡んでなどいない、嘆いてるんだ。瑞江君が私を、『バカ』って言ったんだよ」

エマ「中らずとも遠からず……」

ノブオ「え?」

エマ「いえ。それは酷いですね」

ノブオ「だろう?」

マサヤ「(ナオに)今の聞こえてないの?」

ナオ「あ、これ(風見鶏)まだあったんですか? 部長が作ったんですよね?」

マサヤ「あ、あれ?(無視?)」

ノブオ「そうだよ、(吹く)ほぉら、癒されるだろう?」

マサヤ「せめて他のところに置いて下さいよ」

ノブオ「でも彼女がここがいいって言うから」

マサヤ「彼女?」

ナオ「メスなんですか?」

ノブオ「ま、その体《てい》で。(マサヤに)いよっ、女殺し」

マサヤ「全然嬉しくないです」

ナオ「殺しちゃダメでしょう」

エマ「風見鶏には魔除けの意味もあるのよ」

ノブオ「おお、さすが渋沢君。分かっただろう、瑞江君。私は君のことを深く心に留めているからこそ、この場所に彼女を……」

マサヤ「完全に後付けですよね」

ナオ「邪魔ですよ、そんなとこにあったら」

ノブオ「邪魔!? ……よろり」

マサヤ「わざわざ口に出さなくても」

エマ「あてつけがましいな」

ノブオ「え?(聞こえてない)」

エマ「(笑顔で)大丈夫ですか?」

マサヤ「(ノブオに)都合のいい耳ですねぇ!」

ナオ「でも、魔除けにしたっていらないんじゃないですかぁ」

ノブオ「……(しょんぼり)」

マサヤ「いやでもね、ナオちゃん。これは」

ノブオ「(遮って)いや、いいんだ。そうだな、人によっては、いらないよね……」

エマ「誰にとってもいらない……」

ノブオ「え?」

エマ「(笑顔で)――なんて酷いわ、マサヤ君」

マサヤ「飛び火!?」

ナオ「ね、捨てましょ、これ。捨てちゃいましょう、思い切って」

ノブオ「う、うん……」

マサヤ「ナオちゃん、ナオちゃん!(ナオを引っ張り、小声で)あれ、娘さんの形見なんだよ」

ナオ「娘さん? 誰の」

マサヤ「部長に決まってんじゃん。俺たちには何でもなくっても、部長にとっては大切な思い出の品なんだからさ、そこはちょっと大人になって……」

ナオ「部長! 今朝、会社の前まで娘さんと一緒に来てましたよね」

マサヤ「ええっ!」

ノブオ「うん?」

ナオ「駅から一緒だったの、見ましたよ」

ノブオ「そうだったかなあ」

ナオ「(マサヤに)部長の娘さんて、この先の歯医者で衛生士やってんの。(ノブオに)先月結婚したんじゃありませんでしたっけ?」

ノブオ「はっはぁ、松田君はよく知ってるな。私のスリーサイズまで知ってるんじゃないか」

ナオ「そんなの知る訳ないじゃないですかぁ。エマさんのとかは分かるけど」

ノブオ「ふおっ!!(鼻を押さえる)」

マサヤ「ぶ、部長!(駆け寄る)」

ナオ「やーだ、部長、やらしーい」

エマ「ナオちゃん」

ナオ「はぁい」

マサヤ「で、出ました?」

ノブオ「………………。(恐る恐る手を放して)なぁんちゃって」

ナオ「もう。そういう冗談、趣味悪いですよ」

ノブオ「うん? ちょい悪?」

ナオ「意味違うなあー」

ノブオ「彼、何でも信じるんだよね、つい」

マサヤ「『つい』じゃないですよ! じゃあ『娘さんの形見』って」

ノブオ「……娘のところで『肩身』が狭かった風見鶏でねぇ……」

ナオ「うん、嘘じゃない」

マサヤ「ナオちゃ〜ん」

ナオ「要するに、結婚祝いで贈ったけど『いらない』って突っ返されたんだ!」

ノブオ「そうとも言えるね」

マサヤ「ややこしい言い方は止めて下さいよ〜」

ナオ「じゃあ捨てますよ。ちょうど粗大ゴミ、明日だし」

ノブオ「ゴミだなんて! 大事な作品なんだよ。そうだ、松田君にあげよう。勤続2年のお祝いだ」

ナオ「(笑顔で)いりませーん」

ノブオ「じゃあ瑞江君の完治祝いに」

ナオ「病気だったの?」

ノブオ「イボ痔の手術が成功したんだよ」

エマ「それはめでたい」

マサヤ「患ってません! 待って下さいよ。みんなして僕に押し付けるつもりですか。エマさん、エマさんち、インテリアにどうです?」

エマ「……ウチに?」


エマ、微笑む。威圧されるマサヤ。


ナオ「いらないそうでーす」

マサヤ「やっぱり部長の家に置くのが一番いいですよ。僕、持って行きますから」

ノブオ「ううん、それはどうかなあ」

マサヤ「どうかなって何がです」


全員がノブオを見る。


ノブオ「だってね。……邪魔だよ」


暗転。


7.場合の事情【エマ・カイ・サクラ】

屋上。
座っているエマとカイ。


エマ「そう。愛されてる自信が持てないの」

カイ「ええ……」

エマ「タマキさん、クールだものね」

カイ「そこも魅力的なんですけど。何て言うか、タマキさんにとって自分は必要なのかな、とか考えちゃって」

エマ「それは私に聞かれても、ねぇ」

カイ「あの、会社で自分の話が出たりは……」

エマ「んー…………」


サクラ、下手より後ずさりで出てきて、バレーボールをレシーブ。


サクラ「出ないよ!」


サクラ、下手へ戻る。
それを見ている二人。


カイ「(エマに向き直る)何か言ってませんか。結婚して良かったあ、とか……」

エマ「そうねぇ……」


サクラ、また出てくる。
ボールをトス。


サクラ「全然ないねっ!」


サクラ、下手へ戻る。


エマ「……ですって」

カイ「はぁ……。(ため息)はあぁー」

エマ「そんなに心配することないんじゃないかしら。タマキさん、結婚してからも以前と何も変わりないし」

カイ「それはいいことなんでしょうか……」

エマ「生活が充実してるからこそ、いつも通りの彼女でいられるんじゃない? それはあなたにしか出来ないことでしょ」

カイ「あ、はぁ……。そう、かなぁ……(笑顔になる)」


サクラ、ボールを追って出てくる。


サクラ「やーだ、ちょっと! 変な方に飛ばさないでよぉ!」


サクラ、下手にボールを投げる。
そのまま二人の傍に座る。


サクラ「――で?」

カイ「ええ?」

サクラ「ええ、じゃないわよ。そもそもあんたみたいな風体の男と結婚するくらいだもの。彼女が変わりモンだってことくらい、最初から分かってたんでしょうに」

カイ「聞いてたんですか?」

サクラ「聞こえたのよ」

カイ「(下手を指差して)あそこから!?」

エマ「サクラさん、ちょっと特別だから」

カイ「特別?」

エマ「ええ、能力が高いんです。いろいろと」

サクラ「やだ、エマさんたら」

エマ「たまに思うんですよ。まるで人類じゃないみたい」

サクラ「そんな、褒めすぎよぉ〜〜〜」

カイ「(エマを見て)あ、この人怖い人だ」

エマ「でも、タマキさんは幸せね。こんなに心配してくれる旦那さまがいるんだもの」

サクラ「そうよそうよ。あたしなんて旦那自体いないんだもの」

カイ「あ、なんかすいません」

サクラ「やっだ、謝らないでよ。惨めになるでしょお。……なってきた……」

カイ「あああ! いや、そんな! 結婚だけが人生じゃないですし! 結婚したから幸せになるってもんでもないですし! 現に見て下さい、俺だって……。俺、幸せなのかなあ……」

エマ「あらあら」


下手からボールが転がってくる。
エマ、ボールを取り上げ、下手にはける。


エマ(OFF)「いーい、行くわよぉ」

サクラ「人生ってさあ……」

カイ「無常ですねぇ……」

二人「はああー…………」


暗転。


8.解釈万来【全員集合】

オフィス。
マリ、コウ、エマ、地面に這いつくばっている。
入ってくるマサヤ。


マサヤ「おわっ! え、みんな何してんですか?」

エマ「マリさんが落としちゃったの、目」

マサヤ「め……、え、目?」

マリ「油断してて、ポロっとね」

コウ「この間もやりましたよね、もう。油断しないで下さいよ」

マリ「ごめんごめん」

マサヤ「(怖々と)……マリさん、落ちるんすか、目」

マリ「たまにね〜」

マサヤ「軽いなぁ〜」

コウ「(マサヤに)おう、お前も探せよ」

マサヤ「ええ〜」

コウ「ないと困るだろ」

エマ「そうよ。まっすぐ歩くのも大変なんだから」

マサヤ「そりゃあそうでしょうけど……。ちなみに右と左のどっちですか」

マリ「両方」

マサヤ「両方!?」

エマ「マサヤ君、うるさい」

マサヤ「だって、両方って、無理でしょ!」

マリ「いや、だってさ……(振り向こうとする)」

マサヤ「や、こっち向かないで貰えます!?」

マリ「何で? (エマに)変?」

エマ「いいえ」

コウ「(マリを覗き込んで)普通っすよ」

マサヤ「あんたたちおかしいよ!」

コウ「うるさいな。おかしいのはお前だろ」

エマ「(マリに)別に全然変じゃないですよ」

マリ「ホントに? マサヤ君が変な反応するから」

コウ「こいつは大げさなんすよ」

マサヤ「おかしい、おかしい。だって普通……」

エマ「マサヤ君、ストップ!」


全員静止。
エマ、そろりと歩いてマサヤの足元にひざまずく。


マサヤ「エ、エマさん?」

エマ「マリさん、ありました。コンタクトレンズ」

マリ「ホント!?」


マリ、エマに駆け寄る。
マサヤ、呆然。


マリ「よかった、ありがとう〜〜〜」

コウ「んじゃ、あともう片方っすね」

マリ「あれ? あ、ちょい待ち」


マリ、コンタクトを二つに分ける。


マリ「……くっついてた」

コウ「マジっすか」

エマ「あら」

マリ「よかったぁ。こないだ替えたばっかりなのよ。レンズ交換はいくらでもしてくれるんだけど、破損とか紛失したらまたお金払わなきゃいけなくって、無くしたらどーしよーかと思った」

コウ「早く洗ってきた方がいいんじゃないですか」

マリ「おっ、いいこと言うね。行ってくる」


出て行くマリ。


マサヤ「……コンタクト?」

エマ「そうよ」

コウ「他に何があんの」

マサヤ「だって、『目』って言ったじゃないすか!」

エマ「ホントに目が落ちたと思ったの?」

コウ「落ちねぇだろ、目は」

エマ「落ちないよね」

マサヤ「そうですよ、落ちませんよ! だから俺、変だなって」

コウ「そりゃ変だわ」

エマ「そうね」

コウ「バカだな」

エマ「バカね」

マサヤ「うわ、やられた。引っ掛けだ」

コウ「引っ掛けてねぇし」

エマ「(冷静に)ホントに目が落ちたら、悠長に探してる場合じゃないと思う」

コウ「だよ」

マサヤ「だから俺はそう言ったでしょ!」

エマ「その割には対処がお粗末だったわ。救急車を呼ぶでもなし」

コウ「なぁ」

マサヤ「だって二人があんまり冷静だから、落ちる人もいるのかなって」

コウ「思わねぇよ」

エマ「(片手を挙げて)思わない方に栗庵風味堂の栗かの子・大ひと箱」

マサヤ「賭けませんよ、俺は」

エマ「それは残念」

コウ「何? 栗庵風味堂って」

エマ「長野にある和菓子屋さん」

コウ「長野?」

エマ「ええ。栗がごろんって入ってて、とっても美味しいの」

マサヤ「エマさん、長野までお菓子に買いに行ってるんすか?」

エマ「いいえ。差し入れでいただくの」

マサヤ「ああ(納得)」

コウ「いよっ、歩く『がばいばあちゃん』」

マサヤ「なんすか、それ」

コウ「足元に磁石が付いててさ、歩くと金属がジャラジャラ付いてくんだよ。エマさんの後ろに列を成す男たちみたいにジャラジャラと……」

エマ「『歩く』ってつけなくても、がばいばあちゃんは元々歩くんじゃない?」

コウ「あ、そっか」

エマ「あまり嬉しい例えじゃないけど」

マサヤ「みんなわざわざ長野まで貢ぎ物買いに行ってんだ……(合掌)」

コウ「報われないよなぁ。どうせ相手にされないのに」

エマ「あら、すべて美味しくいただいてるわ」


サクラ、入ってくる。


サクラ「さー、午後も頑張って働きますよぉ。おっ、みんな集まってどうしたの? 何か楽しい話?」

マサヤ「俺が虐められてるんです」

サクラ「それは愉快だ。あたしも参加!」

マサヤ「サクラさんまで、もぉ」

エマ「サクラさん、さっきマリさんがね、目、落としちゃったんですよ」

サクラ「あらま大変。見つかったの?」

エマ「ええ、今、洗いに行ってます」

サクラ「あ、そお。よかったね。コンタクトって高いんでしょ?」

マサヤ「通じた!」

サクラ「うん?」

エマ「(マサヤに)これが普通の反応」

マサヤ「サクラさんはサンプルとしてどうなんでしょう」


エマ「珍しく的確な指摘ね」

コウ「まず、言った度胸を褒めてやりたいな」

エマ「褒められたじゃない」

マサヤ「(疑わしげに)どうかなぁ」

サクラ「ちょっといいかな。何か嫌味を言われている気配を感じる」


エマ「気のせいです」

サクラ「ならいいや」

マサヤ「簡単っすね」

コウ「サクラさん。頭、切りました?」

マサヤ「ええっ!!」

サクラ「あ、分かるぅ? ちょっと伸びて来たからぁ、毛先整えて貰ったんだぁ。近所に出来たサロンの男の子が可愛くてぇ」

コウ「(エマに)サロン、サロンっていいましたよ、今」

マサヤ「卒業したんですかね、QB」

エマ「素敵男子を見るためなら少々の出費は厭わないのよ」

マサヤ「大人だなぁ」

コウ「おい、あれを見ろ」

サクラ「リスみたいに目がクリンとしてるの。こんなよ、こんな。ううん、もっともっと〜〜〜(目を見開く)」

マサヤ「新作ホラーみたいだ」

コウ「あれが大人か?」

マサヤ「勘違いでした。サクラさんだったら本当に目が落ちたかもしれませんね」

コウ「異議なし」

エマ「マサヤ君、単純なんだから」

マサヤ「え? ああ、頭切るって、髪のこと」

エマ「純粋なのかしら」

コウ「ていうか、バカ?」

エマ「はっきり言っちゃうとね」

サクラ「ん? 何の話?」


ノブオ、ナオ、入ってくる。


ナオ「部長、ご馳走さまでしたぁ」

ノブオ「いやいや、さっきは突然お使いなんか頼んじゃったからね。これぐらいお安いものだよ」

ナオ「今日のあたし、チョーラッキーです。あんなオシャレなお店、普段は行けませんもん。ケーキもチョー・オトナ・テイストだったし。やっぱり部長さんともなると、行くお店もワンランク違うって言うかぁ」

ノブオ「いやいやいや……」

ナオ「ホント美味しかったです。普通に!」

ノブオ「――うん?」

ナオ「ですから、普通に美味しかったです。また誘って下さい」


ナオ、礼。みんなの元へ。


ノブオ「……普通なの? 美味かったの? チョー美味しいって、ああ、あれかな。(ギャルの真似)『これヤッバイ!』ってヤツか……?」

マサヤ「部長、部長。サクラさんね、頭切ったんですよ」

ノブオ「えええっ! た、大変じゃないか。救急箱は……、あ、それとも救急車? 出血は? 意識はあるのか!?」

マサヤ「(みんなに)ほらほらほらぁ〜〜〜!」

サクラ「ああ、もう。ノブオさんは」

ノブオ「ん、あれ、サクラ君? 何だ、なんともないじゃないか」

ナオ「やだなあ、部長。サクラさんは、髪を切ったんですよ」

ノブオ「髪? ああ、そうか。ははは、サクラ君、中々ヤバいじゃないか」

サクラ「ああん?」

ノブオ「いや、間違った。無事でなにより。それに似合ってるじゃないか」

サクラ「そう? ならいいけど〜」

ナオ「部長、ギャル語使うんだー」

ノブオ「そりゃあね、上司たるもの、松田君たちのような若者の文化も知っておかないと」

ナオ「ええー、あたし、ギャル語はとっくに卒業してますよぉ」

マサヤ「ほらね、俺だけが特例じゃないでしょ」

コウ「でも五対二だぞ」

ナオ「五?」

コウ「マリさんはこっちだろ」

ナオ「ですね」

エマ「タマキさんも間違えないと思うわ」

ナオ「あはは、ありえなーい」

コウ「てことは、六対二だ」

エマ「まさか二になるとはね。マサヤ君だけだと思ってたのに」

コウ「残念な結果だ」

エマ「残念ね」

ナオ「瑞江さん、残念なんですって」

マサヤ「聞こえてるよ!」

サクラ「ま、ややこしいのあるからねぇいろいろ」


ノブオ、何かを思い出したように、下手にはける。


マサヤ「サクラさんに勝ち誇られるの、納得いかないなぁ」

サクラ「ほっほっほっ」


マリ、入ってくる。


マリ「あれ? サクラさん、また、顔」

サクラ「ふふん、今はいいの。勝ち誇ってるから」

マサヤ「うわ、腹立つ!」

マリ「そうだ、マサヤ君。あたしの目は落ちないから、ご心配なく」

マサヤ「知ってますよ!」

コウ「何でも字面通りに考えるなって言ってんだよ。頭堅いぞ」

エマ「そうよ、臨機応変に、場合によって頭を切り替えなくちゃ」

ナオ「アンパンマンみたいに?」

サクラ「(真似る)ほら、これを食べて元気を出して!」

ナオ「ありがとう、アンパンマン!」

コウ「あれは切り替えてるんじゃなく、すげ替えてるの」

ナオ「でもそうですよね。耳タコだって、ホントに耳にタコが吸い付く訳じゃないし」

コウ「ナオちゃんは切り替え早いなー」

マサヤ「あれ? そのタコじゃないでしょ?」

ナオ「え? 他にタコなんてあります?」

マリ「そもそも『吸い付く』とは言わないわよ」

コウ「『耳にタコができる』だな」

マサヤ「ですよねぇ! びっくりした〜、俺が間違ってるのかと思った」

エマ「段々自分を信じられなくなって来たわね」

サクラ「最近の学校じゃ『耳にタコが吸い付く』って教えるの?」

ナオ「学校で教わったかなぁ。普通に『耳タコ』って言ってましたよ。同じこと何度も言われるとウザいから、タコが耳にフタしてくれる、みたいな。もー聞かないって意味で」


全員、想像する。


マサヤ「近いっちゃあ近いのかな」

エマ「遠いんじゃない?」

サクラ「そう言えば、『命くれない』を『命あーげない』って言うの、流行ったよね」


全員、複雑な表情。


サクラ「あれ?」

マリ「サクラさん、世代的にちょっと」

ナオ「全然分かんなーい」

コウ「俺でもギリっすよ」

ナオ「ギリって、どっち寄りです?」

コウ「小学生の頃、母親が歌ってたような記憶が無きにしも……」

ナオ「西野川さんもこっちでーす」


分かる組(サクラ・マリ)と分からない組(ナオ・マサヤ・コウ)が二手に分かれていく。


サクラ「エマさんは分かるよね?」

エマ「どうだったかしら」

サクラ「あ、知ってる。絶対知ってる」

マリ「サクラさん、そこは」

エマ「………………(サクラを見る)」

サクラ「そ、そうね。ちょっと古いか」


エマ、自主的に分からない組へ。


マサヤ「部長は分かるんじゃないすか」


見回すが、ノブオがいない。
カイ、入ってくる。


カイ「失礼しまーす」

コウ「あ」

ナオ「ああっ」

サクラ「あらま」

エマ「いらっしゃい」

マリ「誰?」

マサヤ「さあ」

カイ「これ、よかったらみなさんで(土産を差し出す)」

エマ「ご丁寧に」

サクラ「おっ、張り込んだね」

カイ「そんな、つまらないもので、お口に合うかどうか」

サクラ「苦しゅうない、苦しゅうない」

マサヤ「あの、こちらはどなたなんですか?」

カイ「あ、申し遅れました。私……」

ナオ「プリキュアと大福を愛する、公園に出没するキモい人でーす」

マリ「変態じゃない」

カイ「変態じゃない! だ、大福泥棒がどうしてここに!」

ナオ「泥棒してないじゃん。訴えるよ!」

カイ「絶対俺が勝てる〜(泣きそう)」

マリ「変態なんですか?」

サクラ「変わってはいるけどねぇ」

カイ「渋沢さ〜ん」

エマ「サクラさん、からかっては気の毒よ。お土産までいただいたのに」

サクラ「だってこの人、からかい甲斐があるんだもの〜」

コウ「女性には随分腰が低いんですね」

カイ「お、青年! 元気にやってるか? 君のために、新製品のサンプルを持ってきたぞう! ほら、サンプル! こんなに、サンプル! さっき欲しいって言ってたろう、サンプル!」

コウ「はあ、まあ言いましたけど……」

ナオ「西野川さん、せこっ」

コウ「こんなにくれなんて言ってないよ」

マサヤ「出入りの業者さんですか?」

カイ「いえいえ、僕はですね……」


ノブオ、上半身ランニング。手にヤカンを持って現れる。


ノブオ「やあやあ! 私だって、へそで茶が沸いちゃうぞう!」


全員、呆然。
ノブオ、全員を見渡し、カイに気付く。


カイ「……九鬼部長、どうされました?」

ノブオ「あ、いやこれはね、違うんだよ! 何ていうか、その……。あれ? もう終わったの?」

カイ「何が?」

ナオ「(手を叩いて)ウケる」

マサヤ「部長、すいません。その感じはつい先程……」

エマ「こちら、お預かりしますね(ヤカンを持つ)」

ノブオ「あ、そう……。は、ははは……。やあ柏木君、久し振りだねぇ」

カイ「いつもウチのがお世話になりまして……」

マサヤ「柏木?」

ナオ「ウチの?」

サクラ「(面白がっている)ってことはぁ?」


タマキ、入ってくる。


タマキ「――ただいま戻りました」

カイ「あ、タマキさん! おかえりなさい!」

タマキ「……どうしたの?」

カイ「うん、近くまで来たから、ちょっとタマキさんの顔見て行こうかなって」

マリ「あ、もしかして、タマキさんの?」


サクラ、コウ、頷く。


マリ「なるほど〜、……伊勢崎線」

タマキ「部長、その格好は?」

ノブオ「いやこれはね。話の流れって言うか、コミュニケーションの一環って言うか。東堂君の目が落ちて、大町さんの頭が切れてヤバくて、そしたらへそで茶が沸くかなって……」

カイ「一体何が起きたんです?」

タマキ「そうですか。分かりました」

マサヤ「分かったんですか!?」

タマキ「(手を叩いて)はい、みなさん、お仕事に戻って。いつまでも遊んでると、首が飛びますよ」


(ME)チョキン!


全員「……は〜〜〜い」


暗転。


9.パラグアイ【タマキ・ナオ】

外。
タマキが階段に座っている。
ナオが飲み物を持ってくる。


ナオ「お待たせしましたぁ。えーと、こっちがタマキさんのカフェオレでーす」

タマキ「ありがと」


ナオ、渡そうとして、手を引っ込める。


ナオ「あれ? こっちだっけ? や、でも先に貰ったのがこっちで、後から来たのがあたしので、でもあたしが右利きだから自分のは右手で持って……?」

タマキ「ナオちゃん?」

ナオ「ちょっと待って下さい。今、大事なとこなんで!」

タマキ「私、何でもいいけど」

ナオ「ダメです、そういう妥協!」

タマキ「はぁい」


ナオ、悩んでいる。タマキ、暇そう。


タマキ「……うっ(腹部を押さえる)」

ナオ「タマキさん?」

タマキ「う、あ、い、痛っ!(かがみ込む)」

ナオ「え、タマキさん? 大丈夫ですか!? 救急車呼びます?」


ナオ、飲み物を置いて携帯を出す。
タマキ、ナオの手を掴む。


ナオ「無理しないで下さい! お腹、痛いんでしょう?」

タマキ「は……、は……」

ナオ「はい?」

タマキ「……『腹具合』と『パラグアイ』って、似てない?」

ナオ「へっ?」

タマキ「似てるよね」

ナオ「まあ、一字違い、ですね……」

タマキ「ふふっ」

ナオ「えっ?」

タマキ「一字違い」

ナオ「そうですよ」

タマキ「面白いわ」

ナオ「やっぱタマキさんって、変」

タマキ「そうかな」

ナオ「変ですよぉ」

タマキ「で、私のカフェオレは?」

ナオ「あ」


ナオ、置いてあった飲み物を取る。


ナオ「しまった。どっちだ」

タマキ「あーあ」

ナオ「タマキさんが変なことするからですよ。もうちょっとだったのに」

タマキ「何が?」

ナオ「あーん、もうっ」


ナオ、両方を交互に飲む。


ナオ「うん、こっちがカフェオレです」

タマキ「(カップを見つめている)…………ありがとう」

ナオ「いーいお天気だぁ」


ナオ、座って飲みだす。


ナオ「タマキさん」

タマキ「なあに」

ナオ「タマキさんの旦那さんって、ちょっとキモいけど、いい人ですね」

タマキ「………………」


タマキ、僅かに微笑む。


タマキ「ナオちゃんは何にしたの?」

ナオ「カフェラテです」


タマキも座って自分のを飲む。


タマキ「どっちでも良かったなぁ……」


二人で飲む。
暗転。

―終わり―


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