たまトザ第4回公演
落ちたらキケン
作・演出 坂本みゆ
(前半)
【CAST】
 柏木タマキ/
壱智村小真
東堂マリ/
池田美貴子
九鬼ノブオ/
臼井武史
松田ナオ/
扇谷あさ子
瑞江マサヤ/
寿福伸也
柏木カイ/
十河宏明
西野川コウ/
月江元
渋沢エマ/
中條志保
大町サクラ/
南久松真奈


1.ひいき【エマ・コウ・サクラ・ノブオ・マサヤ・マリ】

オフィス。
忙しく動き回る社員たち。代わる代わるノブオの前に書類を持ってやってくる。

コウ「部長、こちらが今度の見本市に参加する会社の一覧になります」

ノブオ「うん、ありがとう」

コウ「先方の専務からは、ウチのブースを広めに確保したと連絡をいただきました」

ノブオ「ふん、だからと言って、油断はいかんぞ。あちらもそろそろ代替わりだから、専務の顔がどこまで利くか……。他の来場者にも広くアピール出来るよう、リサーチは怠らないように」

コウ「はい、もちろんです」

ノブオ「頼んだよ」

コウ「失礼します」


コウ、礼をして立ち去る。マリ、入ってくる。


マリ「(書類を出して)部長、こちらが当日、我が社から持ち込む商品の予定数です。確認お願いします」

ノブオ「(見る)ふぅん……。うん?」

マリ「(覗き込む)うん?」

ノブオ「サンプルの持込数はこれで足りるのかな」

マリ「あ」

ノブオ「これじゃ午前中しか配布出来ないだろう」

マリ「ああ、これ、計算間違えてますね」

ノブオ「東堂君はどうも早とちりが多い」

マリ「ですよね、全く困るなぁ」

ノブオ「――いやいや」

マリ「はい?」

ノブオ「東堂君が早とちりしたんだろう」

マリ「ええ、そう思います」

ノブオ「(書類を返す)……もう一度検討して」

マリ「はい。すぐにお持ちします」

ノブオ「急がなくていい。確実にチェックをするように。――東堂君」

マリ「はーい」


立ち去るマリ。
(SE)ときめくような音楽。
エマ、入ってくる。


エマ「部長、こちらの報告書にハンコをお願いします」


ノブオ、動きがぎこちない。


ノブオ「(見る)……いいだろう。(判を押す)」

エマ「ありがとうございました」


エマ、立ち去ろうとする。


ノブオ「(小声で)頑張って!」

エマ「(振り返る)部長、何かおっしゃいました?」

ノブオ「いや」


エマ、首傾げて出て行く。
すれ違いに入ってくるマサヤ。
落ち着きのない様子。


マサヤ「失礼します。(慌てて書類を出す)部長、こちらの企画書に至急目を通していただけますでしょうか」

ノブオ「またかい」

マサヤ「すいません」

ノブオ「(書類を見ながら)瑞江君はいつも机の上をごちゃごちゃにしているから、大切な書類を見落とすんだ。身の回りもスケジュール管理も、普段から気をつけたまえ」

マサヤ「はい。申し訳ありません」

ノブオ「まぁ、間に合ううちに気付いて良かった。うん、この企画書はよく書けている(ハンコを押して返す)。君には期待してるよ。さ、早く先方に届けたまえ」

マサヤ「(感激して)ありがとうございます!」


マサヤ、去る。
(SE)先程の音楽。
エマ、お茶を持ってくる。


エマ「部長、お茶をお持ちしました」

ノブオ「うむ」


机に置き、エマ、去る。
ノブオ、背中に向かって。


ノブオ「(小声で)ありがとっ!」

エマ「(振り向いて)……」

ノブオ「ど、どうした? 早く行きなさい」


エマ、その場でジャンプ。


ノブオ「渋沢君?」

エマ「(止まって)早く行きマサイ。なんちゃって」

ノブオ「…………(呆然)」

エマ「(礼をして)失礼します」


エマ、去っていく。
入れ替わりに、サクラが入ってくる。


サクラ「失礼しまーす。ノブオさーん、こないだの出張費のことなんですけど……」


ノブオがうな垂れている。


サクラ「……ノブオさーん?」

ノブオ「くぅあっわいい〜〜〜(可愛い)……」

サクラ「照れるなぁ」

ノブオ「――違うよ!?」

サクラ「知ってるよ」


暗転。


2.外敵【カイ・コウ・タマキ】

公園。
コウ、ベンチで本を読んでいる。
上手からカイ、ほふく前進で登場。
迷彩柄の服を着ている。
顔にも保護色をペインティング。手にはライフル。
コウ、カイに気づき、目が離せなくなる。
カイ、こちらを見るな、というゼスチャー。
コウ、本に視線を戻すが、ガサガサとカイの近づく音がする。


コウ「ジャングルの中で敵から身を守るため、迷彩柄を用いるのは有効な方法だ。時には命を守ることもある。……が」


コウ、またカイを見る。
やはり見るなとのゼスチャー。


コウ「何一つ保護されてない……。(意を決して)――あの!」

カイ「危ない、伏せろっ!」

コウ「えっ?」


カイ、コウに飛び掛る。


カイ「伏せて、早く伏せてっ!!」

コウ「えええっ?」

カイ「早くしろっ!」

コウ「はい、はい!」


二人でベンチの下に身を隠す。


コウ「(無愛想に)……一体何なんですか」

カイ「これを被れ(ヘルメットを渡す)」

コウ「は?」

カイ「早く!」

コウ「…………(被る)」


カイ、辺りを慎重に見回す。
雲が出てきて、陽射しが和らぐ。


カイ「(安堵の息をついて)……危なかった……。一先ずは安心だ」

コウ「何なんです? 火星人の襲来ですか、ジャイアントパンダの脱走ですか? もしくはジャイアント馬場の失踪とか……」


コウ、ヘルメットを外そうとする。
カイ、慌てて頭を押さえる。


カイ「バカ野郎! 敵をなめるんじゃない!」

コウ「誰です、敵って」

カイ「(長めの間)……この時期の紫外線が一番お肌に悪いんだ」

コウ「…………」


コウ、ヘルメットを放り投げる。


カイ「あああっ!」


慌てて拾いに走るカイ。
コウ、スーツの埃を払う。


カイ「(息が切れている)せっかくの好意に何てことを! 諦めるな青年!」

コウ「諦めるでしょ。お天道様に勝てるかよ。つーか、どうなったら『勝ち』なの」

カイ「(自信満々)お肌を白く保った者が勝ぁぁぁつ!」

コウ「あなたのお肌の色が分かりませんけど」

カイ「案ずるな。しっとりつやつや、タマゴ肌だ」

コウ「へえぇ〜。羨ましいなぁ(棒読み)」


カイ、すかさずポケットからプラスチックチューブを取り出す。


カイ「羨ましがることなかれ! 諦めかけている君に朗報をお届けしよう! これを塗れば、陽射しなんてもうへっちゃら! 真夏のお得意さま回りだって怖くない、イマドキスーツ男子の強い味方、『アンチ・シャイン』!」


(ME)シャキーン!


コウ「フリーター宣言ですか」

カイ「お兄さん! 一本、行っとく?(ポーズ)」

コウ「行きません」

カイ「敏感肌の君にぴったりなトリートメント入りだぞぉう」

コウ「いつ俺の肌をチェックしたんです?」

カイ「うん? 青年、その顔は信用してないな。こいつの効き目を」

コウ「どっちかって言うと、あなたを信用してません」

カイ「ええっ、何で!」

コウ「(カイの全身を眺めて)本気で聞いてます?」

カイ「訳が分からない。こんなにも善良な俺のことを信用出来ないなんて。騙されたことがあるのか? トラウマか? トラウマか。トラウマなのか!?」

コウ「トラもウマも関係ない!」

カイ「いや、『トラウマ』と言うのはだな、『心的外傷』の正式名称で、幼児の頃に虐待を受けたり事故に遭って辛い思いをした人がそれを忘れられずに苦しむという……」

コウ「それは分かってます。俺が言ってるのは、あなたが善良ってのがどこをどう見たら……」

カイ「あ、タマキさーん!(大きく手を振る)」

コウ「聞いてねぇし」


タマキが歩いてくる。


カイ「すごいなぁ。こういうとこで出会えちゃうなんて。これって、運命って言わない?」

タマキ「そんな服、持ってた?」

カイ「スルーかあー。うん、おととい買った」

タマキ「すごいカッコね。通報されそう」

カイ「大丈夫だよ。カッコ良くない? これ」

タマキ「……(携帯を出してダイヤル)

コウ「(覗き込んで)イチ・イチ・ゼロ」

タマキ「あ、もしもし。怪しい人がいるんですけど。えーと、ここは……」


カイ、タマキの携帯を取り上げる。


カイ「いやぁ、いつになくアグレッシブだ。そんなタマキさんも素敵だなぁ」

タマキ「ありがと。冗談よ」

カイ「やだな、分かってますよ!」

コウ「ホントに掛けてましたけどね」

タマキ「コウ君はこんなところでサボり?」

コウ「待機と言って下さい。指定された時間までちょっと間があって」

タマキ「(カイを見て)捕まっちゃったんだ」

コウ「残念ながら」

カイ「うん? お知り合い?」

タマキ「同じ会社の営業君」

カイ「変わった名前だ」

コウ「職種です」

カイ「(タマキに)いやね、公園をぶら〜っとしてたらこの青年がぜひ『アンチ・シャイン』を紹介して欲しいって、興味深々で放してくれなくってさぁ〜」

コウ「ぶらっとする格好じゃないし、引き止めてないし」


カイ、ポケットから申込書を取り出して。


カイ「ええと、じゃあ一本お買い上げってことで、ありがとうございまーす」

コウ「いや、お買い上げてないです」

カイ「でもほらここにサインが」

コウ「俺の名前じゃないですよ」

カイ「あれ、違う? じゃあ正しいのをこっちに」

コウ「そんな誘導に引っ掛かるバカいませんよ」

カイ「タマキさん、営業君、賢い!」

タマキ「マサヤ君よりはね」

コウ「引っ掛かるバカがいたか……」

カイ「いーじゃない。お試しで一本。効果はすぐに現れますよぉ」

コウ「ほー、どんな効果が?」

カイ「簡単にバカ殿になれる!」


コウ「小学校前で売ってみたらどうです?」

タマキ「公園で待ち伏せよりは売れるかも」

カイ「ダメだよ。通報されるじゃん」

タマキ「そこは自覚があるのね」

コウ「あ、お試しなら1本下さいよ」

カイ「売りモンだからなぁ〜」

コウ「ならいらないです」

カイ「ちょ、ちょちょちょ、それはちょっと、困るんで。ほら、契約書あるし」

コウ「勝手に書いてるし、俺の名前じゃないし」

タマキ「一週間以内ならクーリングオフ出来るわよ」

コウ「ああ、なるほど」

カイ「ちょ、ちょちょちょ! 分かった、分かりました。おまけします! えーっとね……。(ポケットを探る)はい!」


カイ、コウに封筒を手渡す。


コウ「ナニ、これ?」

カイ「皮膚科の紹介状! もし何かあったら東京大学の皮膚科で診療して貰えるから!」

タマキ「アフター?」

コウ「そんな、何かあったらって前提で買う人いないでしょう」

カイ「あはは、冗談冗談。営業君は冗談が通じないな〜。そんなんじゃ、人生エンジョイライフ出来ないよっ」

タマキ「人生・エンジョイ・ライフ……」

コウ「二人分になってますね」

カイ「えっとね、はいこれ! 中にチケット入ってるから、使ってよ」

コウ「チケットですか、何の?」

カイ「何って! 何とか言っちゃって、このこの!! (小声で)可愛い女の子がたくさんいる夢の世界にご招待するプレミアムチケットですよう、ダンナ」

コウ「(タマキを気にして)こ、こんなの貰えません」

カイ「うん? 営業君は、そーいうとこ行かない系? そんなことないでしょ、男の子でしょ、たまには楽しんじゃお。心を開放しちゃおうよ〜」

コウ「いや、俺には必要ないんで」

カイ「でもでも、必死でゲットした貴重なチケットなんだよ。それを涙を呑んで献上しようと……」

コウ「そんな大事なチケットならどうぞご自分で使って下さい」

カイ「ああ、なんていいヤツなんだ、営業君! そんな優しい言葉を掛けられたら君を好きになってしまうじゃないか!」

コウ「遠慮しまーす」

カイ「こっちの台詞だ!」

コウ「面倒くせぇ〜〜〜」

タマキ「カイ君」


怒りを含んだタマキの声。
二人、固まる。


カイ「(恐る恐る)……は、はい」

タマキ「私が貰おうかな、そのプレミアムチケット」

カイ「えっ!?」

タマキ「私もお得意さまでしょ? これまでに友達も何人か紹介したのに、そんなの貰ったことないなぁ」

カイ「でもこれは、男子用のチケットだから……。あ、タマキさんにはもっといい物を用意するよ。スペシャル・デリシャス・プレミアム・ミレニアム・エディション!!」

コウ「美味しそうだけど、ちょっと過去ですね」

タマキ「失礼(コウから封筒を奪う)」

コウ「あっ!」

カイ「ああっ!」


(ME)携帯の着信。
カイ、電話に出る。
タマキ、中のチケットを見て、ため息。


カイ「は、はい、柏木です。あ、どーも毎度お世話になって……。え? 今日……でしたっけ? いや、いいやまさかそんな。私が社長との約束を忘れるなんてそんなこと。ええ、近くです。もう近所にいますから、ちょっとだけ、ちょーっとだけお待ちいただけますか……(話している)」


タマキ、封筒をカイのポケットに戻す。
気付いてテンションが上がるカイ。


タマキ「(時計を見て)私、そろそろ戻らないと」

コウ「そんな時間ですか」

カイ「はい、すぐに飛んで参りまぁ〜す!」


スキップで高く飛び、下手にはけるカイ。


コウ「普通に走った方が速いですよねぇ」

タマキ「全くだわ」

コウ「あの、タマキさん、あの人とどういった……」

タマキ「あぁ、恥ずかしながら、旦那です」

コウ「ええっ!」

タマキ「ちょっと変わってるんだけど、ああ見えていい人よ」

コウ「あの、さっきのチケットですけど……」

タマキ「コウ君は貰っても困ると思う」

コウ「中味が知りたいなぁ、なんて」

タマキ「完成披露試写会のチケット。『劇場版 Yes! プリキュア5』の」

コウ「は? プリ・キュア……?」

タマキ「引っ掛からないなら気にしないで。一生知らなくても生きて行けるから」

コウ「はあ……」

タマキ「鍵の付いたクローゼットに美少女系のDVDとフィギュアが並んでたから、予想はしてたけど」

コウ「萌え系、好きなんすかね」

タマキ「トークショーと握手会付きの試写会に行く程度にはね」

コウ「ああ、だから……(タマキを見て、言いかけて、止める)」

タマキ「だから?」

コウ「あ、いえいえ。あれ、タマキさん、鍵の付いたクローゼットをどうやって……」

タマキ「開いたの。偶然」

コウ「偶然?」

タマキ「あるでしょう? そういうこと」

コウ「あるかなぁ」

タマキ「ああ、ホントに戻らないと、遅くなっちゃう。コウ君は?」

コウ「(時計を見て)俺はもうちょいっすね。新譜のチェックでもしに行くかなぁ」

タマキ「シンプのチェック?」

コウ「神の代弁者でも、花嫁でもないです」

タマキ「普通、CDじゃない?」

コウ「はいはい」

タマキ「じゃあ頑張って来てね」

コウ「タマキさん、タマキさんは、どーしてあの人と結婚したんですか?」

タマキ「(長い間考えて)……いい人なのよ」

コウ「……それじゃ、しょうがないっすね」


タマキ、上手へ立ち去る。
コウ、ぽつんと取り残される。


3.積もる話【コウ・サクラ・マリ】

食堂。
テーブルを囲むサクラとマリ。
二人、無言でしきりに枝豆を食べている。


サクラ「――なんだね」

マリ「なんですねぇ」

サクラ「――で?」

マリ「は?」

サクラ「だから、どうなの」

マリ「だから、どう……? (考えて)サクラさん」

サクラ「うん?」

マリ「何か途中でしたっけ、話?」

サクラ「いいや」

マリ「ですよね。びっくりしたぁ」

サクラ「マリさんのことだから、振ったら、こう、なんかさ。ん〜、分かんないんだけど、何かしら出てくるかなって」

マリ「何かしらですかぁ(考える)」

サクラ「嬉しそうね」

マリ「あたし、期待されて伸びるタイプなんで」

サクラ「と・う・どう! と・う・どう!」

マリ「ああ、重い。期待が重いっ! でも嫌いじゃないです、そういうの(にんまり)」

サクラ「ほらほらあるでしょ、なんか。芸能人の離婚とか、スポーツ選手の不倫とか、アナウンサーの独立とか」

マリ「不幸を匂わせるネタばっかりですね」

サクラ「……それが面白いんじゃない」

マリ「サクラさん、悪くなってます、顔」

サクラ「おっと。(直す)それにしても、これ(枝豆)止まらないね」

マリ「ですねぇ。どこのでしたっけ?」

サクラ「鶴岡。山形の。実家から山程送って来ちゃって、こういうのも鮮度があるじゃない? だったら一気に茹でちゃおって」

マリ「ああ、どうりで新鮮ですね」

サクラ「でしょう? あたし、枝豆にはうるさいよ」

マリ「お、不適な笑み」

サクラ「伊達に人よりビール飲んでないからね。こういうの、なんで敵《かたき》みたいに食べちゃうんだろう」

マリ「夢中になりますよね」

サクラ「かっぱえびせんとか、ハマる」

マリ「ああ、最後の方って、噛み砕くためだけに食べてません?」


盛り上がる二人。


サクラ「これ、みんなにも少し残そうね。せっかくだから、食べさせてあげたいし」

マリ「そうですね」


二人の手は止まらない。
コウ、通りかかって、引き返そうとする。


サクラ「あいや、またれい! 青年」


コウ、しまった! との表情。


サクラ「あるよ、兄さん」

コウ「え」

サクラ「ほら、あるよ」

コウ「枝豆、ですね」

サクラ「(コウを手招き)ま、ま、ま」

マリ「どうぞどうぞ」

コウ「………………(マリに救いを求める視線)」

マリ「どうぞどうぞ」


コウ、諦めて、渋々座る。


サクラ「ま、おひとつ」

コウ「……いただきます(食べる)」

サクラ「美味しいでしょ?」

コウ「ええ。それにしても大量ですね」

マリ「海では釣れないけどね」

コウ「……(絶句)」

サクラ「ん? どゆこと、どゆこと」

マリ「大漁と掛けてみました」

サクラ「おっと、こいつぁ一本とられたね」


コウ、呆れている。


マリ「(コウに)サクラさんの田舎から送って来たんですって」

コウ「へえ、どこですか?」

サクラ「山形の鶴岡ってとこ。ま、食いな。遠慮なく」

マリ「故郷のお袋さんも心配してるぞ」


サクラとコウ、マリを見る。


マリ「や、今のサクラさん、カツ丼を進めるベテラン刑事さながらの雰囲気があったんで」

サクラ「……食いなよ、兄さん」

マリ「渋〜い♪」

コウ「(枝豆を食べて、泣く)……ううっ。すいません、僕がやりました!」


サクラ、マリ、白けた雰囲気。


コウ「あ、あれ?」

サクラ「――で、何の話だっけ?」

マリ「ええっとですねぇ」

コウ「ズルくないっすか!?」

マリ「だって、ねぇ」

サクラ「今のはなぁ……」

コウ「サクラさんが続けるから、乗ったんじゃないすか」

サクラ「うん、努力は買うけどね」

マリ「そこで乗るとは思わなかった」

コウ「損したぁ」

サクラ「いや、その勇気をあたしは称えるよ」

マリ「あ、じゃああたしも」


二人、コウに拍手。
口々に褒める。


コウ「どんどんバカにされてる感が募るのはどういうことでしょう」

サクラ「被害妄想だね」

マリ「さては子供の頃に……」

コウ「トラウマはないですよ!」


二人、驚く。


サクラ「そりゃあ、……何より」

マリ「どうしたの?」

コウ「いや、デジャブが。――あ」

サクラ「ん?」

コウ「そういえば、タマキさんて結婚してたんですね」

マリ「そうなの?」

サクラ「そうだよ」

マリ「知らなかったぁ」

コウ「サクラさん知ってたんですか? 特ダネかと思ったのに」

サクラ「あたしを誰だと思ってんだい」

マリ「サクラさんが知らないことなんてないのよ」

コウ「でしょうね」

サクラ「んーで、タマキさんが結婚してたからどうなの? あれ? ちょっとショッキング?(にんまり)」

コウ「面白い顔しないで下さい」

サクラ「(ショックを受ける)してないのに……」

コウ「さっき旦那さんに会ったんです。公園で」

マリ「へぇ。どんな人?」

サクラ「変だったでしょ」

コウ「ははは(苦笑)」

マリ「変なの?」

サクラ「変だったでしょ?」

コウ「いや、どうかな」

マリ「変なの?」

サクラ「変だったでしょう?」

コウ「強制しないで貰えます?」

サクラ「派閥に負けた」

コウ「個人ですけど」

マリ「で、変な旦那さんは?」

コウ「あ、先入観」

サクラ「会社の外で待ち合わせしちゃってさ。一緒に帰ってるの、たまに見たよ」

コウ「……どんな格好してました?」

マリ「格好? 格好って何。サラリーマンじゃないの?」

コウ「その筈なんですけどね」

サクラ「スーツだったよ」

マリ「普通じゃないですか」

サクラ「そう、普通なの。なのに何だろう、漂う空気が、周りの風景を、歪める、みたいな」

マリ「歪める?」

コウ「分かります、その感じ」

サクラ「でしょでしょ」

マリ「顔はどうなんです」

サクラ「人類」

マリ「ピンキリじゃないですか」

サクラ「悪くはないけど、いいって言ったら負けた気がする」

コウ「何にです」

マリ「あたし好きです。サクラさんのそういうとこ」

サクラ「(選挙風に)ありがとう、ありがとう」

コウ「支援者は一人ですよ」

マリ「コウ君から見てどうなの。同じ男として、カッコいい?」

コウ「カッコいい、とは走ってる線路が違う感じですかね」

サクラ「そもそも『カッコいい』は、何線だ?」

マリ「王道だったら山手線ですよね」

サクラ「でもそれだと、旦那が何線でもどこかしらで交差する」

マリ「あ、そうか」

サクラ「そうだね……、東武伊勢崎線と、京急蒲田線、みたいな?」

マリ「対極ですねぇ」

コウ「それ、どっちがカッコいいんです」

サクラ「そりゃあ京急よ! 男のロマンと言えば、蒲田でしょ」


SE 『蒲田行進曲』(ワンフレーズ)
サクラ、銀四郎になりきって刀を捌く。


マリ「銀ちゃん、カッコいいーー!!」

コウ「はいはいはい、電車に例えた俺がうかつでした!」

サクラ「若い時にゃあ粗相の一つや二つ、あるもんよ」

マリ「深いっ!」

コウ「何なんですか、サクラさんの、このたまーに深そうな感じ」

マリ「実際深いのよ。部長の先輩なんだから」

コウ「えっ」

サクラ「いやいやいや」

コウ「部長より古いんですか」

サクラ「あんだって?」

マリ「古いって、止めましょ。サクラさんがまだうら若い二十ウン才の頃、部長が中途採用で赴任してきてね……」

コウ「ウン才って?」

サクラ「気にすんな」

コウ「はい、どーでもいいです」

サクラ「カチーン」

コウ「そのウン才にサクラさんが既に働いてて、部長が入って来たんですか?」

サクラ「最初から部長だった訳じゃないよ(含み笑い)」

コウ「想定内です」

サクラ「君はちょくちょく可愛くないな」

マリ「営業の心得とか伝票の付け方とか、サクラさんがレクチャーしたんだから」

サクラ「えっへん」

コウ「部長の新人の頃って、どうでした?」

サクラ「痩せてたね」

コウ「ああー……」

サクラ「可愛かったんだよ。『大町さん、僕、どうしたらいいんでしょう』なんて、書類書き間違って泣きそうな顔しちゃってさ」

コウ「へぇー。部長にもそんな頃があるんですね」

マリ「今のマサヤ君に近い感じですか?」

サクラ「……あれよかマシかなあ」

マリ「やっぱり」

コウ「うわー」

マリ「どしたの?」

コウ「いないところだとそんな風に言われるんすね」

サクラ「いるとこでも言うよ」

マリ「聞いとく?」

コウ「や、いいです」

マリ「弱いなぁ」

サクラ「弱い弱い。良いこと言われるかもしれないのに」

マリ「ねぇ」

コウ「夢にもそんな気がしません。どうせ俺ら若手はいい肴になってるんでしょうから」

マリ「あれあれ?」

サクラ「兄さん、随分と自信がおありだね」

マリ「いい肴っていいましたよ、自分で」

サクラ「中々言えないよぉ」

コウ「俺、もう行きます」

マリ「あら、ダメダメ」


マリ、立ち上がろうとするコウを押さえ、席を立つ。


コウ「は? え?」

マリ「あたしがそろそろ行かないと。コウ君はゆっくりして行きなさいよ」

コウ「ああ、じゃあ解散しますか」

サクラ「待ちな」


サクラ、コウの服を掴んでいる。


コウ「ちょっ……、何ですか、サクラさん」

サクラ「どうしよう」

コウ「は?」

サクラ「……止まらない…………」


サクラ、枝豆を食べている。
いつの間にか枝豆の殻が山になっている。


コウ「わーーーっ!!」

マリ「ご馳走さまでしたぁ〜」


マリ、出て行く。
暗転。


4.天災【ナオ・カイ】

路上。
携帯で電話しているナオ。


ナオ「だからぁ、売り切れてたんですよ、栗どら焼き。なんかぁ、並ばないと買えないらしくてぇ。でも、代わりに最中買いました。栗入ってたんで。……えぇ〜、最中NGですかぁ? でも、ないんですもん」


とぼとぼと歩いてくるカイ。


カイ「結局二本だけかぁ。社長もショボいよなぁ……」


段差に腰を下ろすカイ。
鞄を探り、豆大福を取り出す。


カイ「ま、いいか。今日も無事終わったんだ」

ナオ「(電話している)分かりましたよぉ。じゃあ何か、適当に買っていきます。はい、和菓子ですよね。あ、コンビニなら近くに……、あはは、ダメ? やっぱ? はいはい、はーい(切る)」

カイ「ああ、白く愛らしいこのフォルム。(首に掛けた写真を見る)まるで君のようだよ、キュアミント。さあて、いただいちゃおっかな〜〜〜」

ナオ「ちょっと待ったぁ!」

カイ「……は?」

ナオ「それ、一個だけ? もう一個あるでしょ?」

カイ「え、あの……」

ナオ「あるよね!?」

カイ「は、はい。もう一個……(鞄から出す)」

ナオ「ほらね、あるじゃん! あーよかった。今ね、取引先のおっさんが会社に来てて、和菓子買ってソッコー帰んなきゃいけないの。言われたのがなかったから、代わりのあたしちゃんと買ったんだよ。なのに最中は食えないとかって、ワガママだよね! そう思わない!?」

カイ「は、はぁ……」

ナオ「ねぇ、チョーダイ。その豆大福」

カイ「はあ。……え? だ、ダメですよ」

ナオ「何で!」

カイ「俺のだもん」

ナオ「いーじゃん、急いでんだから」

カイ「良くない。これは俺の一日の疲れを癒す大切なアイテムで……」

ナオ「あ、もしかしてコンビニの? 安いやつだ。美味しくないんでしょ?」

カイ「とんでもない! 小ぶりだからこそのやわらかい口あたり。ほくほくの小豆から香る上品な甘味。これは昔ながらの味と製法を守り通した、歴史と伝統ある老舗の逸品なんだよ!」

ナオ「ええっ! そんな凄いの譲ってくれるの?(奪う)ありがと! マジでありがと。チョー助かる」

カイ「いや、誰があげるって……」


ナオ、カイの写真に気づいて。


ナオ「あ、可愛い! プリキュアのブロマイドだ。こん中でどの子が好きなの? やっぱのぞみちゃん?」

カイ「え、ええー。(照れる)いやあ、のぞみちゃんも可愛いんだけどー、……やっぱりこまちちゃんかなあー。あの繊細な感じが儚げでさ……」

ナオ「ふーん。キモいね!」


固まるカイ。
大福を取り上げるナオ。


ナオ「じゃあ、どうもありがとねー」


ナオ、足早に立ち去る。
呆然とするカイ。
照明、徐々に暗くなり、カラスの声。


カイ「はっ! いかん。(時計を見て)うほっ、時をかけてしまったじゃないか!(帰りかけて、振り向く)負けるな、俺。スマイルgogo!」


暗転。


5.猫【マサヤ・マリ】

休憩所。
ベンチに座っているマサヤ。
紙コップの飲料を飲んでいる。


マサヤ「はーーーあ。疲れたあ」


(ME)仔猫の鳴き声。
マサヤ、見回すが何もいない。
くつろいでいると、また鳴き声。
ベンチから立ち上がって探す。何もいない。


マサヤ「おっかしいなぁ」


座ると、また鳴き声。


マサヤ「嘘だぁ」


マサヤ、足を忍ばせて歩く。物陰を探すが、何もいない。
諦めてベンチに戻ろうとすると、鳴き声。


マサヤ「何で!?」


マリ、下手より出てくる。


マリ「あれ、マサヤ君も休憩?」

マサヤ「ちょっと一息いれようかなって。マリさん、どこ行ってたんです?」

マリ「食堂。枝豆山ほどあるから、あとで行きなよ」

マサヤ「枝豆?」

マリ「サクラさんが持って来たの。田舎から送って来たんだって。早く行かないと、サクラさんとコウ君が食べ尽くすかも」

マサヤ「ふうん」

マリ「あ、興味無し」

マサヤ「だってそんなの食べたら(ビールを飲む素振り)行きたくなっちゃうでしょ」

マリ「どこに?」

マサヤ「いや、……ビール」

マリ「ああ。あ、そっか。ビールが無いからあんまり進まなかったんだなぁ」

マサヤ「でしょ? お茶であんなのばくばく行けないっすよ」

マリ「そうそうそう! そんな量食べる物でもないしねぇ。マサヤ君は今何やってんの? 新しい企画?」

マサヤ「うーん、そのためのリサーチってとこっすかね。ネットでずっと調べ物してたから目がぱちくりしますよ」

マリ「しばしばじゃない?」

マサヤ「しばしばって、時々ってことすよね」

マリ「それも言うなあ。でも、ぱちくりだと調子良いみたい」

マサヤ「そうですか?」

マリ「(肩を回す)あいたたた。あたしも朝から打ち込みだから肩凝っちゃって」

マサヤ「あ、じゃあ、揉みましょうか?」

マリ「(大げさに飛びのく)えええっっっ!!」


(ME)決闘のような音楽。


マサヤ「な、何すか」

マリ「……触るの? 体に」

マサヤ「だって、凝ったって」

マリ「触るのね! 今ここで、この二人っきりの状態で、あたしに触っていいですかって聞いたのね!?」

マサヤ「(苦笑)あ、じゃあ止めま……」

マリ「いいえ止めないで!」

マサヤ「は?」

マリ「世間から見たら、マサヤ君とあたしじゃ釣り合わないかもしれない。それでもマサヤ君はあたしに触りたくて。それを素直に言えないもんだから肩を揉むとか言っちゃって。ダメよ、ここであたしが尻込みなんか。マサヤ君の勇気が台無しになっちゃう。あたしはそんな無粋な女じゃないでしょう、マリ!」

マサヤ「心の中で喋ってくんないかなぁ」

マリ「マサヤ君!」

マサヤ「うわ、ロックオン」

マリ「いいのよ、揉んで。さあ、揉みなさい! あなたの好きなように!」

マサヤ「今、俺の手なんか届かないくらい、マリさんが遠いです」

マリ「いいのよテレなくて。さあ、さあ、さあ!」

マサヤ「ホントはちょっと、飲んでたでしょう!」


逃げるマサヤ。
(ME)猫の声。


マリ「あ、ミャーコ」


方向転換して立ち上がり、窓の外を見るマリ。
後ろから覗き込むマサヤ。


マサヤ「知ってんすか、マリさん、この声! どこっすか? 外ですか!?」

マリ「下じゃないよ、上、上」

マサヤ「上?」

マリ「ほら、あのでっかいカラス。鳴き声がネコみたいだから、『ミャーコ』って呼んでんの」

マサヤ「え?」


(ME)ミャーコ、ひと声鳴き、飛び立つ音。


マサヤ「カラスかよ……」

マリ「……さてと」

マサヤ「(後ずさり)あ、マリさん! 今の揉む、揉まないの話なんですけど……」

マリ「バッカねぇ、冗談に決まってるでしょ! いい気晴らしになったわ。ありがとね〜。さっ、仕事仕事!」


マリ、出て行く。
マサヤ、脱力。


マサヤ「これがセクハラかぁ……」

マリ「(戻ってきて)あ、マサヤ君」

マサヤ「はい!」

マリ「食堂、一回行った方がいいよ。ホントに美味しいから」

マサヤ「あ、は、はい……。あとで是非」

マリ「それと」

マサヤ「なんすか!?」

マリ「『揉む、揉まないの話』ってのは、どうかな(半笑いで出て行く)」

マサヤ「……早退したい……」


マサヤ、その場に崩れる。



後半へGO!


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