夕 暮 れ キ ャ ベ ツ 

 (後半)
【CAST】
ミツコ   /唐沢智恵美
セイシロウ/西垣俊作 
アキラ   /川崎みそ 
エミ    /木村こてん
カワハラ /横山 大  
ナナエ  /さなみいつこ
アサノ  /入戸野力也
ミズタニ /川畑 竜矢

○同日、夜
店で一人座って考え事をしているアキラ
セイシロウ、上手より登場


セイシロウ「エミちゃ、エーミちゃ! 美味しくない晩ゴハンまーだーっ?」

アキラ「……」

セイシロウ「……エミちゃは?」

アキラ「エミならまだ帰ってないよ。何か食うか?」

セイシロウ「……ア……」

アキラ「……ん?」

セイシロウ「……(考えてる様子)」

アキラ「どうした、兄貴?」

セイシロウ「ア……」

アキラ「「あ」?」


エミ、下手から登場


エミ「ただいま〜」

アキラ「あ、お帰り」

エミ「あれ、兄さんどうしたの?」

アキラ「さあ、よく分からないけど……今なんか言おうとしてたみたいで」

エミ「アキラちゃんに?」

アキラ「うん。「あ」って……」

エミ「「あ」? ね、それってアキラちゃんのこと思い出したのかな」

アキラ「え?」

エミ「「アキラ」の「ア」じゃないのっ? 兄さん、分かるの? アキラちゃんのこと」

セイシロウ「ア……」

エミ「「ア・キ・ラ」?」

セイシロウ「アリババ星人! ついに現れたか!」

アキラ「えっ?」

セイシロウ「アリババ星人め、アオバを奪いにやって来たな! 大丈夫だよ、アオバは 僕が守ってあげるからねっ! さあ、僕の背中に乗って!(背中からアオバが落ちる) アオバちゃんと掴まらなきゃダメだよ、さあ、乗って!(落ちるアオバ)」

アキラ「……」

セイシロウ「(アキラを見て、服の胸元からアオバを突っ込む)ぼ、僕とアオバは一心同 体なんだぞ、さあこい!」

エミ「何言ってんの、兄さん?」

セイシロウ「エミちゃ、エミちゃ、危ないよ。アリババ星人に近づいたらやられるよ!」

エミ「アリババ星人?」

アキラ「……俺のこと?」

エミ「みたいね。……何でアリババが宇宙人になってるの?」

アキラ「俺に聞くな」

エミ「兄さん、アリババって山賊だよ? 星人じゃないよ」

セイシロウ「さん・ぞく?」

エミ「そう、アリババは山賊。で、アキラちゃんは地球人。山賊じゃないからね。アキラち ゃんは兄さんの妹だよ」

セイシロウ「アキラ・ちゃ? いも・おと?」

エミ「そう、アキラちゃん。兄さんの妹」

セイシロウ「いも! おと!」

アキラ「区切り方変だぞ」

エミ「まあまあ、それはいいじゃない」

セイシロウ「アキラちゃは、いも!」

アキラ「てめぇ、わざとやってんだろ!」

エミ「アキラちゃん、落ち着いて! 兄さん悪気はないから!」

アキラ「……ったく……あ、エミ」

エミ「ん?」

アキラ「アリババは山賊じゃないぞ」

エミ「えっ! だって「アリババと40人の山賊」って……」

アキラ「正確には「アリババと40人の盗賊」で、「アリババと」だから。アリババは一般 人」

エミ「(笑ってごまかす)そ、そうだっけ? ま、何にしたって「星人」じゃないもんね。どっ からそんな発想が出てきたんだか」

アキラ「派手だからかな」

エミ「えー、似合ってるよ」

セイシロウ「アキラちゃは、いもの山賊星人!」

エミ「兄さん?」

アキラ「……基本的に人間扱いされてないな」

エミ「だっ、大丈夫よ。すぐ慣れるって」

アキラ「俺が? 兄貴が?」

エミ「お、お互いに……? 兄さん、そんな風にしてたらアオバが汚れちゃうよ」

セイシロウ「汚れない。アオバは綺麗だもん」

エミ「さっき落としたでしょう、髪がグシャグシャになってるじゃない(アオバに手を伸ば し、セイシロウに払われる)きゃっ」

セイシロウ「アオバ触(さわ)るな!」

アキラ「兄貴」

セイシロウ「アオバに触っていいのは僕だけだ! 誰も、誰も絶対にダメ!」

アキラ「だからってエミに乱暴なことするなよ」

セイシロウ「お前なんか知らない。僕に触るな、出て行け、山賊星人!」

アキラ「星人じゃねえっつってんだろ! 聞けよ、兄貴!」

セイシロウ「早く出て行け、ウチから出て行け、ガリベンメガネ!」

アキラ「メガネはお前だろ!」

セイシロウ「大仏ボクロっ!」


セイシロウ、上手へ


エミ「兄さん!」

アキラ「(額を触る)……ねえよ、そんなの」

エミ「もう、危ないなあ。大丈夫、アキラちゃん?」

アキラ「……(考えてる様子)」

エミ「アキラちゃん?」

アキラ「……なあ」

エミ「ん?」

アキラ「アオバって、あれ元々お前の人形だよな」

エミ「うん……」

アキラ「何で兄貴が持ってるんだ?」

エミ「分かんない。兄さんの退院の日、あたし学校行ってたのね。で、帰ってきて兄さん の部屋覗いたらあの人形抱え込んで手放さなくなっちゃって」

アキラ「あれ、アオバなんて名前だったか」

エミ「ううん、あたしはメアリって呼んでた」

アキラ「何で「アオバ」なんだ?」

エミ「さあ……」

アキラ「……」

エミ「どうかしたの?」

アキラ「いや、何でも。……そう言えばデートはどうだった?」

エミ「デートじゃないよ。母さんが無理やり追い出すから」

アキラ「お似合いだと思うけど」

エミ「ミズタニさん、いい人だとは思うけど、頼りないんだもん。映画館で飲み物はこぼ すし、いい感じのシーンでは寝ちゃってるし、頭グラングランしてるから周りみんなこっ ち見て、すっごい恥ずかしかったんだよ。ね、ね、それよりアキラちゃんは彼氏いる の? 昼間の人、彼女……じゃないよね。あれからまた来たの?」

アキラ「いいや、仕事が片付かないんじゃないかな。忙しいから、彼女は」

エミ「刑事さんがホストクラブなんか行くんだ」

アキラ「ナナエさんは男の人が苦手なんだよ。普通のホストクラブは行ってみたけどダ メだったんだって」

エミ「別に嫌だったら行かなくてもいいんじゃない?」

アキラ「誰かに話を聞いてほしいときってあるだろ?」

エミ「でもそういう時は親とか、友達とかに聞いて貰うもんじゃないの」

アキラ「親も兄弟も友達もいない人は?」

エミ「……ナナエさんはいないの?」

アキラ「いるんだろうけど、本人は「いない」って言い張ってる。いい思い出はないみた いだね。一人暮らしだし」

エミ「それをアキラちゃんが聞いてあげるの?」

アキラ「まあね」

エミ「アキラちゃんはそういう時、誰に相談してたの?」

アキラ「俺は……別に、誰にも」

エミ「……よかった」

アキラ「え?」

エミ「アキラちゃんに大事な人が出来てたら帰ってこなかったかもしれないもん」

アキラ「……」

エミ「へへっ(照れ笑い)」

アキラ「……」

エミ「何でも言ってねっ。あたしだって少しは大人になったんだよ」

アキラ「エミ」

エミ「ん?」

アキラ「ホントに何でも言っていいか」

エミ「うんっ。なになに?」

アキラ「……実は俺、家を出てからしばらく海外に行って、性転換の手術を受けたん だ」

エミ「ええっ!」
アキラ「だから正確にはもう女じゃないんだ」

エミ「……アキラちゃん……」

アキラ「エミ、俺のこと嫌いになるか?」

エミ「そんなことないよ! でも、どうして……」

アキラ「なんてね」

エミ「え?」

アキラ「そういう時はエミに相談することにする」

エミ「変な冗談言わないでよ、もうっ! 本気にするでしょ」

アキラ「ごめん、ごめん」


下手よりカワハラ登場


カワハラ「こんばんはー」

エミ「あ、先生、こんばんは。今日、約束してましたっけ?」

カワハラ「いえ。ちょっと近くまで来たから、ご飯食べていこうかと思ったんだけど…… 今日、もう終わりですか?」

エミ「母さん、出かけちゃったんですよ〜。聞いたことないですか? 水曜はフラメンコ 教室なんですよ」

カワハラ「ああ、そう言えば今日、水曜でしたね。……(アキラに視線を向ける)」

エミ「あっ、先生、こちらアキラちゃんです。母さんから聞いてますよね?」

カワハラ「アキラ……ああ、家出してたって言う……」

エミ「アキラちゃん、こちらはお世話になってる弁護士さん」

アキラ「ああ、ナカモト先生」

カワハラ「は?」

アキラ「あれ、何だっけ? ジュウシマツ……でもないですよね」

エミ「カワハラ先生だよ?」

アキラ「ああ、そうそう」

カワハラ「うぐいす法律事務所のカワハラです。お母さんには時々ナカモトって……」

アキラ「余計な名前は結構です。カワハラ先生、ですね」

カワハラ「これは失礼しました。(名刺を差し出す)カワハラと言います。よろしくお願い します」

アキラ「お世話になってます」

カワハラ「エミちゃんよかったね、お兄さんが帰ってきてくれて」

エミ「え」

アキラ「……」

エミ「ち、違いますよう、先生! アキラちゃんは……」

カワハラ「冗談です。お姉さんですよね」

エミ「(力が抜ける)」

カワハラ「ははは、僕、名前を間違えられるの大嫌いなんですよ。お返しです」

アキラ「……以後気をつけます」

カワハラ「そうですね。その方がお互いに気持ちがいいでしょう」

エミ「先生、大したもの出来ないけど、何か作りますね」

カワハラ「いや、せっかくだからお姉さんにお話しを聞きたいんで。お時間よろしいでし ょうか?」

アキラ「ええ」

エミ「でもご飯食べに来たんでしょう? 何か簡単な……」

カワハラ「いいえ! ……どうかお気遣いなく。エミさんは席を外していただけますか」

エミ「……そうですかあ。じゃあアキラちゃん、あたしは奥にいるから」


エミ、下手へ


アキラ「……前に食べました?」

カワハラ「……野菜のごった煮らしきものを一度」

アキラ「甘辛い?」

カワハラ「ええ」

アキラ「……酢豚ですね」

カワハラ「あ、いや、そんなのじゃなく……」

アキラ「(きっぱり)酢豚です」

カワハラ「……(席に着く)」

アキラ「どうぞ(水を置く)」

カワハラ「どうも。(水を飲む・深呼吸)さて……お父さんのことについてなんですけど、 いま裁判になってまして、お母さんから聞いてますか」

アキラ「はい」

カワハラ「アキラさんご自身は、お父さんが自殺したと思いますか」

アキラ「……どういう意味ですか」

カワハラ「意味なんてないですよ。どう思っていらっしゃいますか」

アキラ「母は理由がないと言っていました」

カワハラ「あなたは?」

アキラ「……考えられません。三年も連絡を取っていませんでしたし」

カワハラ「……そうですか」

アキラ「父は酔ってホームから転落したんですよね」

カワハラ「ええ、まあ」

アキラ「……だったら普通事故で処理されますよね。保険会社はどうして自殺だなんて 言ってるんですか」

カワハラ「お父さんとお兄さんが行った居酒屋の人に聞いたんですが、そんなに酷く酔 った様子はなかったみたいなんですよ」

アキラ「だから自殺だと?」

カワハラ「向こうはそう主張しています。」

アキラ「でもお酒は呑んでたんですよね」

カワハラ「はい」

アキラ「……だったらそれはやっぱり事故だと思います。父はお酒に弱かったので… …」

カワハラ「……そうですか……。まあ、不景気ですから、保険金を出し渋っているんでし ょう。お父さんは特に遺書も見つかりませんでしたから」

アキラ「……あの」

カワハラ「はい」

アキラ「兄からは、話を聞きましたか」

カワハラ「お兄さん? いいえ、私はどうも嫌われているようで、私が来ているときは顔 を見せてくれません」

アキラ「そうですか……」

カワハラ「何か?」

アキラ「……父さんの事故のとき、兄はずっと側にいたんでしょうか」

カワハラ「ちょっと待って下さい。(鞄からファイルを取り出す)……ええと、駅員の話に よると、お兄さんはコーヒーを買うために自販機のところにいたんで……お父さんには 背中を向けていた格好ですね」

アキラ「最初に父の転落に気付いたのは兄ですか、駅員ですか」

カワハラ「駅員は茫然自失のお兄さんを先に見つけてますから、運転手かお兄さんか ってところでしょうね」

アキラ「運転手は何て?」

カワハラ「ホームがカーブを描いているので、柱が邪魔して、見通しは悪かったようで す。「柱の影から男性が突然飛び出してきた」、としか」

アキラ「柱の影から……」

カワハラ「アキラさん?」

アキラ「……」

カワハラ「どうかされましたか?」

アキラ「……先生はどう思ってますか」

カワハラ「え?」

アキラ「父は自殺したと思っているんですか」

カワハラ「……僕がどう思うかは関係ないですね。僕はお父さんが自殺ではないことを 証明するだけです」

アキラ「では、もしも……」

カワハラ「もしも?」

アキラ「……いえ、何でもないです」

カワハラ「思いついたことは何でも仰って下さい。何がヒントになるか分かりませんか ら」

アキラ「……」

カワハラ「アキラさん?」

アキラ「先生すいません、急用を思い出しました。今日はお帰りいただけますか」

カワハラ「え」

アキラ「わざわざ来ていただいたのに何のお構いも出来なくて申し訳ありません」

カワハラ「……急用では仕方ないですね。では今日はこれで(立ち上がる)」

アキラ「(頭を下げる)」

カワハラ「私で力になれることがあったらいつでも連絡して下さい。お待ちしてます」

アキラ「ありがとうございます」


カワハラ、下手へ退場
アキラ、上手へ入る


アキラ(OFF)「エミ、俺ちょっと出掛けてくるから」

エミ(OFF)「もう遅いよー?」

アキラ(OFF)「何時になるか分からないから戸締り頼む」

エミ(OFF)「はーい、いってらっしゃい。気をつけてね〜」


アキラ、上手から出てくる。手に封筒を持っている
携帯を取り出し、かける


アキラ「もしもし、ナナエさん? 今どこ? これから会えないかな、ちょっと頼みがある んだ……いや、俺がそっちに行くよ。じゃ、あとで。(切る)……(下手へはける)」


暗転
○翌日(昼)
席に座っているミズタニとアサノ、


アサノ「―で、どうだったの、昨日のデートは」

エミ「デートじゃないです」

ミズタニ「夢のような時間だったなあ……」

エミ「だって本当に夢見てたんだもん」

ミズタニ「いや、それは緊張のあまり」

アサノ「緊張で寝るヤツなんているかよ」

エミ「もうミズタニさんとは出掛けない」

ミズタニ「エミちゃん、ごめん! もう寝たりしないからさ、また行こうよ、ね?」

エミ「知ーらない」


下手よりアキラ、ナナエ登場(ナナエの手にはノート入り封筒)
ナナエ、よろよろとイスに腰掛ける


アキラ「ただいま」

エミ「アキラちゃん! 昨夜帰ってこないから心配してたんだからね。どこ行ってたの よ」

アキラ「兄貴、いるよね」

エミ「うん。奥にいるよ」

アキラ「母さんも?」

エミ「え、うん……」

アキラ「エミ、ナナエさんにコーヒー出してあげて」

エミ「アキラちゃん? どうしたの」

アキラ「お前は来るな(上手へはける)」

アサノ「……何だ、ありゃ。昨日に輪をかけて無愛想だな」

ミズタニ「(ナナエに)何かあったんですか」

エミ「あの、アキラちゃん、どうしちゃったんですか」

ナナエ「……コーヒー貰える?」

エミ「あ、はい」

アサノ「おい、ここは喫茶店じゃないんだぞ」

ミズタニ「何か、お疲れみたいですね」

ナナエ「……疲れたなんてもんじゃないわよ」

アサノ「あんた、昨日も仕事休んだんだろ? 公務員てそんなに休んで平気なのか よ? おい、ミズタニ、俺らもこれからお勉強して、公務員試験でも受けるか?」

ミズタニ「そんなに簡単に受かるような試験じゃないよ。不況になってから競争率上が ってるし、年齢制限もあるし」

アサノ「え、年まで決まってんのかよ? んじゃ、このねえちゃんはどうやって受かった んだよ」

ナナエ「あんた、ホンっトに逮捕してやりたいわ……。(ミズタニに)ね、キミ、何かこい つのネタ持ってないの?」

ミズタニ「ネタ?」

ナナエ「自転車泥棒とか、立ちションとか痴漢とか、何でもいいわよ。軽犯罪法で引っ 張れそうなヤツ」

ミズタニ「はー、そうですねえ……」

アサノ「あんた無茶苦茶言うなよ。お前も考えてんじゃねえよ、バカ」

ミズタニ「あっ、今、俺を侮辱しました」

ナナエ「あーもういいわ。あたしは昨夜一睡もしてないの。お願いだから少し静かにして くれない? 頭が痛くって……(エミがコーヒーを置く)あ、ありがと」

エミ「……あの、アキラちゃん昨夜あなたと一緒だったんですか」

ナナエ「……そうよ」

エミ「一晩中?」

ナナエ「そうね」

アサノ「寝てないって……お兄さんやるなあ」

エミ「そんなあ……」

アサノ「まあまあ、エミちゃん、大人同士なんだから、ね」

ナナエ「あんたたち、今日は帰りなさい」

アサノ「あん?」

ナナエ「ちょっとこれから大事な話するから」

ミズタニ「大事な話って……」

アサノ「昨夜二人が一緒にいたことについて、とか」

ナナエ「まあね」

エミ「なっ、何の話ですか!」

アサノ「エミちゃんには刺激が強いんじゃない? ミズタニ、また出掛けた方がいいかも な」

ナナエ「それはダメ。あなたにも関係あるから」

エミ「あたしにも?」

アサノ「まあ、家族だしねえ……」

ナナエ「と言うわけで、あんたたちは邪魔」

アサノ「どうせなら俺らも同席させて下さいよ」

ミズタニ「アサノ」

アサノ「だって滅多に見れないことになるぞ、きっと」

ミズタニ「それはそうだけど……」

ナナエ「ダメよ」

アサノ「勿体振らなくてもいいでしょう。おめでたい事は皆で分け合いましょうよ。何なら 二人の恋の応援団になって……」

ナナエ「いいから、帰んなさい!」

アサノ「……はいはい、何だよ、せっかく祝ってやろうと思ってたのに。ご祝儀なんか絶 対払ってやらないからな!」

ミズタニ「エミちゃん、またね」

エミ「あ、ありがとうございましたー」


アサノ、ミズタニ下手へ退場


ナナエ「のれん、片付けて」

エミ「え?」

ナナエ「今日は閉店よ」

エミ「あのっ、勝手にそんなこと決めないで下さい」

ナナエ「言う通りにして。誰にも邪魔されたくないわ」

エミ「あの……大事な話って何ですか」

ナナエ「……もうすぐ分かるわよ。全員揃ったらね」

エミ「全員?」


下手よりカワハラ登場
のれんを外して、持ったまま店に入る


カワハラ「やあ、こんにちは」

エミ「先生! 何してるんですか!」

カワハラ「エミちゃん、これ、どこに置いたらいいですか」

エミ「え、あ、じゃあ、ここに……(カウンターへ誘導)」

カワハラ「(のれんを置く)勝手なことをして申し訳ありません。でも今日は閉店して頂き ます。大事な話があるので」

エミ「先生……」

ナナエ「ご苦労様です(立ち上がり、敬礼)」

カワハラ「そちらこそ。アキラさんは」

ナナエ「(目線を奥に)……」

カワハラ「そうですか、じゃあ待たせて貰いましょう。(イスに座る)……コーヒー、美味し そうですね」

エミ「あ、すぐ淹れますね」

カワハラ「エミさんが? (ナナエに)……どうですか、それ」

ナナエ「どうって……コーヒーよ」

カワハラ「普通に?」

ナナエ「ええ」

カワハラ「エミさん、では私にも」

エミ「……少々お待ち下さいっ!」

カワハラ「ナナエさんですね。昨夜はお電話で失礼致しました。改めまして、カワハラで す(名刺を渡す)」

ナナエ「……どうも」

カワハラ「ご気分が優れないようですね」

ナナエ「……当たり前でしょう」

カワハラ「結局徹夜ですか」

ナナエ「ええ」

カワハラ「アキラさんは、どうするつもりなんですか」

ナナエ「……さあ」

エミ「(カワハラにコーヒーを渡す)……どうぞ」

カワハラ「ありがとう」

エミ「あの……これから何が始まるんですか?」

カワハラ「もうすぐ分かりますよ。エミちゃん、お父さんを好きでしたか」

エミ「え、はい」

カワハラ「ではお母さん、アキラさん、セイシロウさんは」

エミ「……好きです」

カワハラ「それはよかった」

エミ「先生……」


大きな音。上手からセイシロウとアキラが揉み合って出てくる


エミ「アキラちゃん、兄さん!」

アキラ「そいつを渡せって言ってんだろ!」

セイシロウ「触るな、アオバは誰にも渡さない!」

アキラ「ふざけんな、寄越せッ……(セイシロウに攻撃される)痛ッ!」

エミ「アキラちゃん! (アキラに駆け寄る)」

アキラ「下がってろ、エミ!」

セイシロウ「渡さない、渡さない、渡さないいいッ!! (アオバを抱え込んで床にうずくま る)」

アキラ「(人形を奪い取ろうと必死) 兄貴、いい加減にしろよ!」

エミ「やめて、アキラちゃん! 兄さんは普通じゃないの、何にも分からないのよ。乱暴 しないで!(アキラを引っ張る)」

アキラ「兄貴、そいつを渡せ!」

セイシロウ「やだ、やだああッ!」


上手からミツコ登場


ミツコ「お前たち何やってんだい!」

エミ「母さん、アキラちゃんが、アキラちゃんが兄さんにッ……」

ミツコ「アキラ、やめなさい! (セイシロウからアキラを引き離す)」

アキラ「放せよ!」

ミツコ「いい年して派手な兄弟ゲンカするんじゃないよ。アキラ、セイシロウは何も分か らないんだ、子供と同じなんだよ、何をムキになってるんだい」

アキラ「違う!」

エミ「違うって何が……」

アキラ「分かってる。兄貴は全部分かってるんだ。もうやめろ、もうそんな芝居やめちま え!!」


静寂(長めの間)


セイシロウ「……アオバ、恐かったね。大丈夫だよ、僕が守ってあげる。アオバには僕 がいるよ」

エミ「……アキラちゃん、お芝居って……」

アキラ「兄貴、もうやめよう。いいんだよ、兄貴が全部背負わなくてもいいんだ」

ミツコ「アキラ、どうしたんだい。お前おかしいよ、エミも驚いてるじゃないか。お客さんも ……あら、先生。どうされたんですか」

カワハラ「アキラさんに呼ばれましてね」

ミツコ「アキラに……? その、隣りのお嬢さんは……」

カワハラ「こちらはナナエさんです。お母さん、アキラさんが聞いてほしいことがあるそう ですから」

ミツコ「……はあ……」

アキラ「母さんに聞きたいことがある」

ミツコ「セイシロウ、部屋に戻ってなさい」

アキラ「ダメだ、兄貴がいなくちゃ」

ミツコ「セイシロウは普通じゃないんだ。話なんか出来ないよ」

アキラ「ダメだ!」

エミ「アキラちゃん……」

ミツコ「……どうしたんだい、そんな怖い顔して」

アキラ「母さん、教えてくれ。……何で……父さんを殺した……」

エミ「……アキラちゃん……?」

ミツコ「何言い出すかと思ったら、この子は……」

ナナエ「正直に話していただきます」

ミツコ「あんた、誰だい」

ナナエ「(警察手帳を出す)警視庁捜査一課のものです」

ミツコ「捜査一課?」

カワハラ「殺人事件を担当する課ですよ」

ミツコ「先生、これはどう言う……」

カワハラ「私は立会人として呼ばれました」

エミ「何なの……全然分かんない。兄さんがお芝居してるとか母さんが父さんを殺した とか……。嘘よそんなの。何でアキラちゃんそんなこと言うの」

アキラ「兄貴、話してくれ。あの日何があったのか」

セイシロウ「アオバ、アオバ、大好きだよ。ずーっと一緒にいようね。ずっと、ずーっと… …」

アキラ「兄貴は見たんだろ? 父さんは自殺でも事故でもなく……」

セイシロウ「(首を激しく横に振る)」

アキラ「兄貴、何でその人形は「アオバ」なんだ。何で急に俺に「アリババ」なんて言った んだ。話してくれ、頼む」

カワハラ「アキラさん、セイシロウさんは話す気は無いようですから、無理強いは止めま しょう」

アキラ「……母さん、兄貴は全部覚えてる、何一つ忘れちゃいない。でも母さんのため にこんなことしてるんだ。母さんが嘘をつき続けたら兄貴は兄貴に戻れないよ」

ミツコ「……セイシロウ……(歩み寄る)」

セイシロウ「僕はなーんにも知らないよ。名前も、年も……僕はだあれ? みんな、み ーんな知らないよ」


テーブルにあった封筒からノートを出す


アキラ「……母さん、これ……見て」

ミツコ「(ノートを開く)……これは……」

アキラ「今までのメニューが全部書いてあるよ。……あのコロッケの作り方も」

ミツコ「……こんな物……。どうしてお前が」

エミ「(ノートを奪って)うわぁ……ホントだ。すごく細かく書いてある……」

アキラ「父さんが俺に送ってきた。俺が2回も引越ししてるから、届くまでに半年くらい掛 かったけど」

ミツコ「……お父さんが、お前に……?」

アキラ「ウチに帰って来いって意味だと思ってたから、届いてしばらくのあいだは放って おいたんだ。俺に送ってきた意味も分からなかった。でも……」

エミ「あれ? これ……変だよ? だって……」

アキラ「ノートの後半、父さんの筆跡が明らかに変わってる。筆跡が、と言うより……」

ミツコ「アキラ!」

アキラ「それが、原因なんだね……?」

ミツコ「あたしは……」

セイシロウ「思い出したあっ!」

エミ「兄さん?」

セイシロウ「おとーさ、は、つるって、つるってしたの! んで、よろよろって、わーって、 ごろんって落ちたの!」

ミツコ「セイシロウ……」

セイシロウ「そしたら電車がゴーって、来て、おとーさ、おとーさはっ……! だから、お かーさは、何も……わあああああああっ!(小ビンを取り出し、飲み干そうとする)」

ミツコ「セイシロウ!」

アキラ「やめろ!(ビンを叩き落とす)」

セイシロウ「(苦しそうにもがく)」

カワハラ「セイシロウくん!」

ナナエ「飲んだの!?」

カワハラ「エミちゃん、救急車を、早く!」

エミ「兄さん、兄さんっ……」

カワハラ「エミちゃん! ……っダメか、アキラさん、救急車を!」

アキラ「はい!」

エミ「兄さんっ……」


暗転
救急車のSE


ナナエN「あなたがご主人をホームから突き飛ばしたんですね」

ミツコN「…………はい」

ナナエN「息子さんと相談のうえですか」

ミツコN「いいえ! ……セイシロウはあの人が酔っていたので離れたところにある自 動販売機に向かいました。私は柱の陰に隠れていて、ちょうどそのとき電車が入ってき て……チャンスだと思いました」

ナナエN「立ち去るときに息子さんと顔は合わせなかったんですか」

ミツコN「夢中でしたから……すぐに逃げました。セイシロウが見てないのを願っていま した。あのう」

ナナエN「はい?」

ミツコN「セイシロウは、あの子はどうなったんですか」

ナナエN「……(間)あのビンの中身、あなたはご存知ですね」

ミツコN「はい、あれは……」


ゆっくりと照明が入る
○同日・定食屋(夕)
アキラ、エミがイスに座っている


アキラ「あれは、母さんが父さんを殺すために用意した農薬だ。兄貴はアオバの頭の 中にあのビンを隠してたんだ」

エミ「頭の中?」

アキラ「あの人形、首が外れるだろ?」

エミ「ああ……。アキラちゃんはいつから気付いてたの。母さんが、父さんを……」

アキラ「いつからって……いろいろ、おかしいと思ったんだけど。……そうだな、母さん があのノートの存在を知らなかったところから、かな」

エミ「あのノート?」

アキラ「普通なら母さんに預けるだろ? 何で俺にって……。それにお前も見ただろ、ノ ートの後半」

エミ「うん……。何なの? あれ」

アキラ「それはまだ確信がないから、あとで。―で、次に兄貴。訳分かんないことばっか 言って、最初は本当にショックで変になったと思ってたんだけど……、兄貴、俺に「大仏 ボクロ」って言っただろ」

エミ「(頷く)」

アキラ「どっかで聞いたなと思ってさ。小学生のころ、兄貴のクラスにいたんだよ、そう いうあだ名のヤツ。何で急にそいつの名前が出たのかと思って、会いに行ってきた」

エミ「「大仏ボクロ」に?」


カワハラ下手より登場


カワハラ「こんにちは」

エミ「先生!」

アキラ「兄の様子はどうですか」

カワハラ「今は落ち着いてますよ。処置が速かったので、もう心配ないです」

エミ「よかった……」

アキラ「母には、会えましたか」

カワハラ「……いえ、事情聴取の最中だったので、まだ」

アキラ「そうですか」

カワハラ「終わったらナナエさんが連絡をくれると約束してくれました。これまでに分か ったことを少しお話ししましょう」


三人、イスに座る


カワハラ「まず、セイシロウさんの飲んだビンの中身についてですが……アキラさんの 予想通り、ビンに入っていたのが「アオバ」です。「アリババ」は、「アオバ」とは直接関 係ないんですが稲作に使われている農薬の名前だそうです」

エミ「あ、「アリババ」って、兄さんがアキラちゃんに言ってた……」

アキラ「出どころは「大仏」んち」

エミ「え?」

アキラ「ウチはずっとキャベツとトマトはそこから仕入れてたんだ。アオバは母さんが 「家庭菜園で虫が付いて困る」って嘘ついて、分けて貰ったんだ。兄貴がそれを見つけ て……」

カワハラ「それがそうじゃなかったんです」

アキラ「え?」

カワハラ「見つけたのはお父さんだったそうです。セイシロウさんはお父さんから預かっ ただけでした」

エミ「父さんが?」

カワハラ「お父さんは爪切りを探していて、お母さんの鏡台でそれを見つけた。…… 元々仕入れはお父さんがやっていたんですから中身はすぐに分かったでしょう。お母さ んが誰かを殺そうとしているのを知って、引き出しから抜き取り、それをセイシロウさん に預けた。薬がなくなったらお母さんもバカなことは考えなくなると思ったのか、説得し ようとしたのか……。でも逆にお母さんは焦ってしまった。自分の計画が誰かに知られ ている、今すぐにでも殺さなきゃいけないと思った。セイシロウさんがビンを預かったの は……」

アキラ「二人で飲みに行った……父が殺された日、ですね」

カワハラ「……ええ。お父さんは「自分がお母さんに問い質すから、その間これはお前 が持っていろ」と仰ったそうです。でもその直後にお父さんはお母さんによってホームに 突き落とされた。」

アキラ「兄は見ていたんですか」

カワハラ「走り去る後姿を……。それでも、見間違えるわけありませんよね、自分の母 親を。セイシロウさんはお父さんを亡くしたうえにお母さんまで罪に問われたら……そう 考えると気が遠くなったと言っていました。幸い周りは誰もいませんでした。自分さえ何 も喋らなければお父さんは事故死として処理されるだろう、と」

エミ「母さんは、どうして……?」

アキラ「あのノートに答えがあるんだ。あのひらがなだらけのノート。先生、父は……」

カワハラ「アキラさんの予想通り……お父さんは……アルツハイマーにかかっていたそ うです」

エミ「……アルツハイマー……?」

カワハラ「はい」

アキラ「やっぱり、そうですか……」

エミ「(首を横に振る)……そんな……父さん、普通だったよ」

カワハラ「症状は初期の、物忘れ程度だったんでしょう。本人に自覚があったかどうか ……。ですが、一緒に仕事をしているお母さんは比較的早いうちに気付いたようです。 何でも、ご自身のお父様が?」

アキラ「ええ、祖父がアルツハイマーでした。一緒に暮らしていましたが、じきに寝たき りになって……この家で亡くなりました。まだ俺たちが小さいころです」

カワハラ「介護をしていたのはお母さんですね?」

アキラ「……ええ」

エミ「そう言えば、仕入れはずっと父さんだったのに、急に母さんに変わったの。母さん は父さんを少しは休ませてあげなくちゃって言ってたけど……」

カワハラ「二重に仕入れをしたり、支払いを忘れたり……。そんなことが何度かあった ようです」

エミ「じゃあ、母さんは父さんが邪魔になって殺したって言うんですか!?」

カワハラ「いいえ、それは違います。お母さんは、怖くなったんですよ」

エミ「……え……?」

カワハラ「アキラさん、お父さんはお母さんやあなたに手を上げることがあったそうです ね」

アキラ「……ええ。……父は優しくするのが下手な人でした。兄貴や俺も母さんを庇っ て殴られたことがあります。俺が家を出たのもそんな父のやり方が許せなくて、何度も ケンカした末のことです」

エミ「父さんが母さんを? あたし、そんなの一度も……」

アキラ「母さん、お前には知られないようにって必死に隠してたから。もちろん、俺と兄 貴も」

カワハラ「お父さんの痴呆が深刻化してきたら誰彼構わず手を上げることも考えられま す。それに、お母さんは痴呆症の世話がどれだけ大変なのかを身をもって知っていま す。店を続けながら、お父さんの世話はとても出来ないと思ってしまったそうです」

アキラ「俺が、逃げ出さずにこの家に居たら……」

エミ「アキラちゃんのせいじゃないよ。あたしだって、何にも知らなくて……」

アキラ「いや、でも……」

カワハラ「お二人とも、ご自分を責めるのはやめて下さい。お母さんはセイシロウさん、 アキラさん、エミさん……皆さんのことを思っていたからこそ……。方法は間違っていま したが……」

アキラ「兄は、どうなりますか」

カワハラ「……お母さんの罪を知っていて隠していたのですから、裁判にかけられま す」

エミ「先生……」

カワハラ「大丈夫ですよ、僕に任せて下さい。おそらく情状酌量で執行猶予が付く筈で す」

エミ「じょう、じょう……え?」

アキラ「刑務所に行かなくていいってことだよ。先生、母と兄をよろしくお願いします」

エミ「お願いしますっ!」

カワハラ「はい。……ところで店はどうするんですか」

アキラ「続けます。母さんが戻ってくるまで潰す訳に行かないですから」

カワハラ「そうですか、あ、でも調理の方は、その……(エミを見る)」

アキラ「兄と俺でやります。これがありますし(父のノートを出す)」

カワハラ「そうですか……」

アキラ「すぐには上手く行かないでしょうけど、元々細々とやって来た店です。これから も、そうして行きます」

エミ「アキラちゃん、あたしも勉強する。だから先生もたまに食べに来てね!」

カワハラ「……お兄さん早く退院出来るといいですね」

エミ「先生!?」

アキラ「先生にもしものことがあったら母さんと兄さんが大変だから、エミは今までどお りホール担当な」

エミ「アキラちゃんまで〜」

カワハラ「ああ、コーヒーはなかなかでしたよ」

エミ「もう、先生なんか知らないっ!」


笑うアキラとカワハラ
エミ、上手へはける


アキラ「でも、ホントにたまに食べにきて下さいよ」

カワハラ「……知っていたのかもしれませんね」

アキラ「……え?」

カワハラ「お父さんは、ご自身の病気のことを、そしてお母さんが考えていたことを。だ からあなたにノートを託したのかも……いや」

アキラ「……」

カワハラ「やめましょう。本当のことはお父さんにしか分かりません。きっとあなたに帰 ってきて欲しかったんでしょう」

アキラ「……そうですね」

カワハラ「ところで……アキラさん、僕の名前は覚えましたか」

アキラ「え? えーと、ナカ・ガワ……いや、えっと……あ、事務所は覚えましたよ! う ぐいす、うぐいす法律事務所ですよね? えーと、うぐいすの……ナカガワラ先生!」

カワハラ「カワハラです」

アキラ「……すいません」

カワハラ「仕方のない人ですね、そういう人には必ず覚えられる方法があるんですけ ど」

アキラ「何ですか?」

カワハラ「ご自分の名前になったら忘れないと思いませんか」

アキラ「は? ちょっ……何言って……」

カワハラ「ま、それも冗談ですけど」

アキラ「あのですね……」

カワハラ「アキラさん、元ホストさんなのにこういう冗談には案外弱いんですね」

アキラ「その、ホストに「さん」を付けるのはやめて下さい。バカにされてる気がします」

カワハラ「でも弁護士も「弁護士さん」って言われますよ? 私はバカにされてるんです かね? 芸能人で……誰でしたっけ? あの「トシちゃんさん」ってのは明らかにバカに してると思いますけど……」

アキラ「カワハラ先生!」

カワハラ「ああ、ほら、覚えたじゃないですか」


カワハラの携帯が鳴る


カワハラ「はい、ああ、ナナエさん。お疲れ様です。はい、ええ……。そうですか。あ、ち ょっと待って下さい。(アキラに)お母さん、面会出来るそうですが、アキラさんもお会い になりますか」

アキラ「いいんですか?」

カワハラ「本当は難しいんですが、どうぞ」

アキラ「え?」

カワハラ「アキラさんが交渉した方が早いでしょう」

アキラ「もしもし、ナナエさん? お疲れ様。ね、面会って、俺も行ってもいい? うん、 そっちに行けばナナエさんにも会えるし……うん、じゃあ、あとでね(切る)……オッケー です」

カワハラ「いやあ、お見事ですね。惚れ惚れします」

アキラ「やっぱりバカにしてるでしょう」

カワハラ「それは被害妄想ですよ?」

アキラ「ああそうですか……。(上手の奥に向かって)エミー、俺、警察行くけど、お前も 行くか?」


エミ、上手から出てくる


エミ「あたしは……いいや。留守番してる。アキラちゃん行ってきて」

アキラ「いいのか?」

エミ「うん、急にたくさんで行ったら母さん驚いちゃうでしょ」

アキラ「……エミ」

エミ「母さんに伝えて。「待ってる」って」

アキラ「……分かった。行ってくる」

エミ「行ってらっしゃい。先生も気をつけて下さいねっ」

カワハラ「お邪魔しました」


エミ、手を振って二人を送る
入口近くのダンボールからキャベツを取り出す


エミ「よおーし」


カウンターでキャベツを刻む練習
照明、ゆっくりとダウン

                     ― 終わり ―



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