たまトザ 第5回公演
さよなら、地球人。
 作・坂本みゆ
演出・詞音

(前 半)
【CAST】
椿 蝶子(44)/
新明 茉璃
大倉 善(40)/
斉藤 和彦
三田島鈴子(38)/
栗原 絵理
掛井 永介(33)/
西垣 俊介
天野 ナイル(29)/
藤 水美流
松山 千歳(26)/
小野瀬 菜月
林 久市(26)/
篠原 佑騎
天野 まひる(22)/
壱智村 小真
楠田 重文(21)/
加藤 寛規
穴吹 由梨(18)/
座間 由紀


○宇宙船『アマリリス』のデッキ。

全員が集まるデッキ(談話室)。
中央にソファ、舞台端にコクピットが備えられている。(座れる)
コクピットには通信機器(ヘッドセット)がある。

オルゴール曲『アマリリス』が流れる。
コクピットで窓の遠くを見つめる天野まひる(22)。


まひる「……いつかこうなるって分かってたのに。もう、何十年も前から。……きっとみんなこう思ってたんでしょう? ツケを払うのは、自分じゃない『誰か』だって……」


エンジン音が徐々に大きくなる。
暗転。


ソファに掛井永介(33)、林久市(26)、楠田重文(21)、大倉善(40)が集まっている。
書類を中心に揉めている。
久市、永介と善を見比べキョロキョロ。


永介「ですから先日も言ったとおり、今は非常に厳しい状態なんです。何でも皆さんのご希望通りと言う訳にはいかなくて……」


善が大きく床を鳴らす。
永介、大げさに脅える。


善「聞こえねぇよ。もっと腹から声出してくんねぇかなぁ、主任さん。あんた、俺らよりいいモン食ってんだろ?」

永介「い、いえ、そんな。我々だって皆さんと同じですから……」

善「同じな訳ねぇだろ。どうせ俺らは貧乏な避難民だからな。あんたらお役所サマが会議の度に美味い弁当取り寄せてるくらい見当がつくってんだよ!」

テーブルを蹴飛ばす。
張り詰めた空気。

まひる「……備品を傷つけたり壊したりしたら、個人賠償になりますよ」


全員、まひるを見る。


久市「まひるさんっ!! いつの間に……」

まひる「ずっといましたけど」

善「お前みたいに押し黙ってたら、いるかいねぇか分かんねぇな」

まひる「あなたに認識されることが必要だと思っていないので」

重文「僕は知ってました。まひるさんという輝きがそこにあるのを!」

永介「楠田君は詩人ですね」

久市「くぅ〜〜〜!(出遅れた)」

善「何してんだ、そんなとこで」

まひる「お昼の当番です」

善「OLか」

重文「うわぁ、まひるさんのOL姿、似合うだろうなぁ。白いシャツにピンクのタイトスカート、チェックのベストで……」

久市「楠田君ッ! まひるさんでいやらしい想像をするな!」

重文「えー。僕のイメージは、ランチの時間に財布片手にコンビニへ急ぐ、ごくごく普通のOLですよ? いやらしいですか?」

久市「えっ。あ、い、いや、その……」

重文「久市さん、何想像したんです?(いじわるそう)」

久市「う、うるさいッ!! お前、引っ掛けたな!」

重文「うわあ。それ、当たり屋の理屈ですよ」

久市「なんだとう!」

永介「まあまあ、お二人とも」

重文「一緒にしないで下さい」

久市「こっちのセリフだ!!」

善「(威圧気味)止めとけ、ガキども」


一堂、静まる。


永介「さすが大倉さん……」

善「全くお前らは分かってねぇ。……いいか、定番の制服OLも悪かねぇが、やっぱりオフィスレディの華といったら『社長秘書』だ。それも黒っぽいピッチピチのスーツで、黒ブチの眼鏡なんかかけてるのがいやらしいぞ。白いブラウスのここ(首)のとこのリボンを解くと黒いブラジャーがあらわになってだな……」

久市「ちょ、善さん、止めて下さい。女性の前で」

善「あん? こいつは平気だろ。プロがすぐ側にいるんだから」

久市「善さんっ」


まひる、席を立つ。
静寂。
全員を一瞥して、出て行こうとする。


善「おい、通信当番は」

まひる「そんなにいるんですから、誰か出られるでしょう」

久市「まひるさん、僕は決してふしだらな気持ちなどっ」

まひる「(平静で)どちらでもいいです」


まひる、出て行く。


重文「……引いてましたねぇー」

善「ったく、男のひとりもいねぇからノリが悪いんだ。お前らのどっちか、さっさと何とかしちまえ」

重文「はーい、頑張りまーす。……久市さん?」


久市、落ち込んでいる。


久市「……ダメだ、軽蔑された。せっかく、せっかく少しずつ愛を育んでたのに。しかも誤解なのに、まひるさんがあんな目で僕を……」

重文「いつもと同じですよね」

永介「はあ、元々クールな方ですから……」

重文「ああいう女性がいいんですよ、ずっと一緒にいるなら」

久市「善さん、まひるさんに謝って下さいよ。で、僕の誤解も解いて下さい」

善「何をだ? 俺はあいつにピッチピチのスーツ着ろなんて言ってないぞ。俺にだって出来ることと出来ないことの区別くらいつく」

久市「ナイルさんを馬鹿にしたじゃないですか。まひるさんは、そのことに怒ってるんですよ」

善「あぁ? 馬鹿になんかしてないし、あいつも別に怒ってないだろ」

久市「怒ってましたよ」

善「ああん?(威圧)」

久市「(善を見られずに)ぼ、僕は、何でもあなたの都合のいいように解釈しないでほしいだけです」

善「聞こえねぇなあー」


天野ナイル(29)入ってくる。


ナイル「失礼」


物陰に隠れる永介。
善、少し気まずそう。
ナイルは露出が多い下着のような服で、久市は目のやり場に困っている。
重文は得したような表情。
ナイル、探し物をしているように周りの人間の背後やポケットを探る。


善「おい、何してんだ?」

重文「探し物ですか?」

ナイル「(重文に)……まひる見なかった?」

重文「探し方違うなー」

久市「出て行きました」

ナイル「……そう。先生に呼ばれてたんだけど、ちゃんと行ったのかしら」

久市「また具合が悪いんですか?」

ナイル「昨夜、軽い貧血があったから、念のためよ」

久市「またですか? 何も言ってませんでしたけど……」

ナイル「全く、貧血を甘く見ちゃいけないのに」

久市「心配ですね。僕も探しましょうか」

ナイル「平気よ、狭い船の中だもの。通信当番だから、てっきりここだと思ったんだけど……」

久市「ホントにさっきまで居たんです。でも善さんが怒らせたから」

ナイル「……(善を見る)」

善「俺じゃねぇだろ。AVの話始めたの、お前じゃねぇか」

ナイル「AV」

久市「ち、違いますよ! 楠田君が」

重文「止めて下さい。僕がしたとしたら、コスプレの話です。そこからAVに発展させたのは久市さんですよ」

久市「だから僕じゃないって!」

ナイル「バカねぇ」


ナイル、久市と重文の間に入る。


ナイル「そんなの見なくても、あたしの部屋にくればいいのに」


久市、重文、骨抜き。


重文「えー、で・でもぉ、ホントにお邪魔しちゃっていいんですかぁ」

久市「楠田君!」

ナイル「あとで・ね」


善、口笛を吹く。
ナイル、流し目で立ち去る。


善「無駄に振りまくねぇ〜」

重文「潤ったぁ〜」

久市「楠田君は誰でもいいんじゃないか。だったらまひるさんからは手を引いてほしいな」

重文「僕にとってナイルさんは、まひるさんのお姉さんってだけですよ。ただでさえ狭っ苦しいところに閉じ込められてるんですから、美しい人を見て和《なご》むくらい、いいでしょ」

久市「……ナイルさんはいつも君に構う。気があるんじゃないか」

重文「何だ、ヤキモチ」

久市「違う! 僕は、こんな状況なのに、楠田君もナイルさんも、緊張感が足りないって言ってるんだ」

重文「えー、別にそんな……」

永介「そんなんじゃありません!」


ふと見ると、仁王立ちの永介。
全員、永介に注目。


永介「どうしてあなたたちはあの人の思いやりが分からないんですか。こんな避難生活を続けていたら、誰だってストレスが溜まるんです。心がささくれるんです。彼女は、それを少しでも和《やわ》らげようとして、自らいろいろと……。そう、楠田君に構ったり、ちょっとセクシーな服で現れたり……。彼女は女優です。部屋から一歩外に出たら、このデッキさえ、もうステージなんです。愛らしくも妖艶な微笑み。繊細な黒髪。それは手が届きそうで永遠に届かない見果てぬ楽園……」


全員、唖然とする。
ハッとする永介。


永介「あ、いえ、私はその。ナイルさんは、決して軽い気持ちではなく、ああ、だからと言って楠田君に本気ってことではなくて、あれは彼女なりの優しさで……」

重文「ファンですか」

永介「えっ」

重文「そうかぁ、主任さんはナイルさんのファンなんですか」

永介「いや、私は、その」

善「『元ファン』だろ、とっくに引退してんだから。――にしても、主任さんも男だねぇ。学生時代、あの女のDVDに世話になったクチか?」

永介「違いますよ」

善「ごまかすこたねぇよ。女王様系では結構人気あったんだろ? 俺も何本か見たことあるぜ。乳は大したことねぇけど、ああいう小生意気なオンナが最後にオチるのはスカッとするよなぁ」

重文「僕、ナイルさんのは見たことないんですよね。SMちっくなのもちょっと(苦手で)。久市さんは……」

久市「(赤面している)ない! 断じてないッ!!」

善「見たな」

重文「分かりやすすぎですよねぇ」

久市「だからないって!」

善「まぁまぁ。男ってなカナシイ生き物でな。俺たちみんな仲間ってことで」


善、永介と肩を組むが、永介は不快そうにすり抜ける。


永介「……私は仲間じゃないです」

善「はいはい、主任さんはお堅いね」

永介「(毅然と)あの! ……そろそろ、お話を戻してよろしいでしょうか」

善「へ? ああ、そうだそうだ。役人にごまかされてる場合じゃねぇよ。俺らにとって一番大事なメシの話をしてたんだからな。おい、主任さん。四の五の言わずにさっさと米買えよ」

永介「ですから、買えないんです」

善「他のモン削りゃいいだろ。俺らの希望は、とにかく米が食いてぇってことなんだよ。米だよ、米。知ってんだろ。あの白くてピカピカ光ってるヤツだよ。何が悲しくて毎日毎日イモばっか食わされなきゃいけねんだ。第二次世界大戦じゃねぇっつうの」

永介「でも、今はある意味そうと言えなくもないって言うか……」

善「(威嚇する)だーッ!! ウダウダ言ってんじゃねえ! ウダ井ウダ介か、テメェはっ!!」

永介「いえ、掛井永介でございます」

善「知ってるわ!」

重文「大倉さん、ま、ま(落ち着かせる)」

久市「(こまめに頷いている)」

善「んだよ。お前だって米信者だろ? もうイモは飽きただろ?」

重文「ま、はっきり言ったら飽きてますけど」

久市「で、でも、イモは偉大ですし……」

善「確かに腹に溜まるし、ここのババア、料理は達者だけどよ。でもここまで毎日はいらねぇだろ。この際、他の食料削ってさ、米は絶やさないようにしてくれって言ってんだよ。こんなの、避難生活に耐えてる一般庶民のささやかな願いじゃねぇか」

永介「……はあ。大倉さんのお気持ちは分かりますし、こちらとしても希望に副いたいとは思ってるんですが、でもですね。皆さんが地球にいた頃とは桁違いに米の値段が上がってまして、そうそう簡単に買い付ける訳にも……」

善「だからよぉ! 他のモン削って、最優先で米を確保しろっつってんだよ! お前らは中継ステーションで飽きるほど食ってるかもしれねぇけど、こちとらもう33日、米食ってねぇんだよ。お茶漬けでもいいから、さらさらっとやりてぇんだよ!!」

重文「もう、大声止めましょうよー」

永介「はい、はい! もう皆さんのご要望は十二分に存じておりまして、我々も最大限の努力を続けている次第なんですが……」

善「結果が出てねんだから、こっちだってお前の努力を評価しようがねぇだろうが!!」


善、机を叩く。
沈黙。


重文「――と、まあ大倉さんも主任さんの努力を認めたいんですけど、いかんせん、何の成果もないと褒めにくい感じなんですよねー」

永介「は、はぁ……」

善「努力だ? こいつのどこが努力してんだよ。ガキの使いみたいにお偉方の言うこと伝達しにくるだけじゃねぇか」

重文「しょうがないですよ。こんな風に避難生活をしてるのは僕らだけじゃないんですから」

久市「そ、そうですよ! 先輩は精一杯やって下さってるんです。僕らの要求が通らないのは、現状がそれだけ苦しいってことで……」

善「はっ! 先輩先輩って、実際には同じ学校通ってねぇじゃねぇか。郷土愛ってな美しいねぇ。こっちは、テメェの無能を国のせいにするヤツなんざ、益々信用出来ねぇ。大体、米食いてぇってのがそんなに贅沢なのか? 生活の根本が揺るがされてんだから、抗議は当然だろ」

重文「パンがなければお菓子を食べればいいのに」

善「あぁ!?(胸倉を掴む)」

重文「――て言った王妃様がいたなあって。米がないからイモってことなんじゃないですか?」

千歳の声「そう、その通りです」


全員、声の方を向く。
松山千歳(26)が入ってくる。


千歳「日本の米の自給率は、西暦2000年には約95%と高いものでした。しかし、2040年の今は、20%まで落ち込んでいます。今や日本米は相当の贅沢品です」

永介「松山君」


善、久市、重文「誰だ?」「さあ?」など、やりとりをしている。


千歳「(イラついている)全く、予算交渉ひとつにどれだけ時間を掛けてるんですか」

永介「だって交渉って言うのは互いの意見を交換してこそ……」

千歳「そんな必要ありません。こちらは決定事項を伝えればいいんです。(善らの方を向いて)皆さんよろしいですか? 現状はあなた方が考えてるより深刻で……」

永介「(千歳を遮る)ちょ、ちょ、ちょ。(小声)困るよ、これは私が任せられてる仕事だ。どうして君が……」

千歳「どうして? それはご自身が一番分かってらっしゃるんじゃないでしょうか」

永介「いや、それは……」

千歳「主任にグズグズされると、それだけ他の船の予算振り分けも遅れてしまいます」

永介「だから今から……」

千歳「お話の流れは聞かせていただいてましたが、主任に任せていたら、日が暮れます」

重文「久々に聞きましたね」

善「暮れねぇからな。ここにいたら。ところでお姉ちゃん、あんた誰だよ」

千歳「(礼)失礼しました。私《わたくし》、掛井の部下で移民課所属の松山千歳と申します。課長命令で、先程停車したステーションから乗船させていただきました」

善「なあ、20%(パー)ってのはホントの話か」

千歳「本当です。テロリストによる有毒ガスの散布は、大気汚染に伴い、土壌にも深刻な被害を与えています。農作物の自給率は、今後、下降の一途を辿ると予想されていて、中でも日本米なんて相当の高級品です。ごく一部でしか出回りませんし、おそらく……、この船の方の口にはもう入らないんじゃないでしょうか」

永介「松山君!」

久市「ほ、本当ですか?」

千歳「ですから、本当です」

重文「でも、ちょっと大げさに言ってるんじゃ……」

千歳「……(睨む)」


引き下がる重文。
一堂、沈黙。


善「……なあ、ごく一部ってのは、特Aランクの『カトレア』や『カサブランカ』に乗ってる連中の口には入るってことか」

永介「……(気まずそう)」

千歳「そうです」

永介「松山君!」

千歳「ごまかすことに何の意味がありますか。船にはそれぞれランクがあります。契約金、月極《つきぎめ》賃料、共益費。ピンとキリでは何倍もの料金差が発生してるんです。料金に応じたサービスが受けられるのは当たり前のことでは?」

永介「それは、そうだが……」

善「すんませんねぇ、キリの方で」

永介「いえ、大倉さん! 私は決してそんなことは」

重文「『アマリリス』に乗ったら米が食べられないなんて条項は見た覚えありませんけど」


千歳、小冊子を取り出す。


千歳「これは、契約時に|皆さんに《、、、、、》お渡ししている『乗船要綱』です。第二十六条三項に『国内外の情勢によって、環境・待遇は変化する場合があります』と記載されています」


久市、冊子を借りる。
重文が覗き込む。


久市「うわ、(字が)ちっちゃ〜」

重文「こんなの読みます?」

千歳「読まないのはあなたの勝手です。こちらは記載しているということで、違約ではありません。では、この件については了承いただいたとして……」

善「おいおいおい」


三田島鈴子(38)割ぽう着で手を拭きながら入ってくる。


鈴子「ねーえ、主任さんいる〜? あら、やっぱりいるじゃない、もう」

永介「は、私に何か……」

鈴子「何かじゃないわよ。主任さんが食堂に来ないから片付けられないじゃない。お昼食べちゃってよ」

永介「あ、すいません。私、今日は定例会だったので、そこで……」

善「やっぱりてめぇ米食ってんじゃねぇか!」

永介「ああっ、すいません!」

鈴子「何ですってぇ!!」


鈴子、永介に詰め寄る。


永介「すいません、そんなつもりじゃなかったんですけど、お弁当が配られて、食事しながらってことだったんで、私ひとり手を着けない訳にも……」

鈴子「いらないならいらないって、昨日言ってくれたらよかったのに。あー、無駄な材料使っちゃった。ギリギリまで切り詰めてるのに、ロスしちゃった。あー、溜まるわ、ストレスだわ〜〜〜」

永介「あの、椿先生に勧めてみては」

鈴子「あれは時間通りに来たためしがない! 声掛けるだけ無駄。いざとなったら自分で点滴でも刺してりゃいいのよ」

善「(怒るのは)そこじゃねぇだろ、こいつだけ米食ってんだぞ!」

鈴子「うるさいね、四〇《しじゅう》超えた男が食いモンでガタガタ言ってんじゃないよ。ないモンは仕方ないだろう。パンがなけりゃお菓子を食えばいいんだよ!」

重文「お、アントワネットがここにも」

善「あぁん? 四〇超えたから文句言うんだよ。こちとらこれから先、メシ食える回数が限られてんだぞ」

鈴子「ならもう少し美味そうに食いな。あんたみたいにかっこんでたら、米だろうがイモだろうが、バウムクーヘンだろうが変わんないよ」

善「バウムクーヘンがかっこめるか!!」

鈴子「(善を無視して千歳に)あんた誰だい」

善「(悔しそうに震えながら)無視してんじゃねぇよ」

千歳「掛井の部下の、松山と申します(名刺を渡す)」


重文と久市、鈴子の横に並ぶが名刺は貰えず、残念そう。


鈴子「ふぅん、千歳ちゃん、ね。あたしは三田島鈴子、所属は衛生課。ここの賄い婦だよ。あんたは主任さんの引継ぎかい?」

千歳「いえ、次の給油ステーションで降ります。こちらで急ぎの仕事があったもので……」

鈴子「主任さんのお目付け役ってとこかね」

千歳「そのようなものです」

永介「……(しょんぼり)」

鈴子「じゃあ四日間はいるんだね。何か食べられないものは……。いや、イモ食えるかい?」

千歳「ええ、好きですが」

鈴子「なら良かった。まったく、出来の悪い上司を持つと部下は苦労するねぇ。まあそこが主任さんらしいっちゃらしいんだけど。(永介に近付き、人差し指でスーツをなぞる)……んふっ」

永介「〜〜〜〜ッ!!(悪寒)」

千歳「(驚いている)!?」

鈴子「いいねぇ。この、擦《す》れてない感じ。ああそうだ。ちょっと顔貸して」

永介「えっ? 何か問題でも……」

鈴子「女に言わせるのかい」

永介「えええっ!」

鈴子「……流しの上の棚がガタついてるのよ。ちょっと見てくれる。ほいほいほいほい〜」

永介「ちょ、み、三田島さん!」

久市「あ、僕もお手伝いします!」


鈴子、永介のネクタイを引っ張り連れて行く。
久市も後に続く。


千歳「……大丈夫でしょうか?」

重文「あ、冗談なんで、気にしないで下さい」

千歳「冗談」

重文「遊んでるんですよ。おばちゃん、主任さんからかうのが大好きで。いちいち反応するからでしょうけど。スーツがツボみたいですよ」

千歳「はあ……。まあ、スーツを着ると男性は三割増って言いますけど」

善「おっ、じゃあ俺もスーツにしてみるかぁ?」


チャイムの音。


重文「あ、授業だ。パソコン立ち上げなきゃ」


重文、出て行く。


善「……んだよ」

千歳「人によるかと」

善「知ってますうぅ(出て行く)」

由梨の声「やーだぁ、そんなメンドーなの」


入れ違いに穴吹由梨(18)入ってくる。
後から追ってくる椿蝶子(44)。


蝶子「あんた話聞いてた? 面倒なのはあんたじゃなく、あたし」

由梨「じゃあいーじゃん、やんなくて」

蝶子「そういう訳に行かないの。仕事なんだから」

由梨「またあ〜。仕事してる振りなんかしちゃってぇ」

蝶子「振りって、あんたね……。(千歳に)誰?」

千歳「掛井の部下で、移民課の松山千歳と申します(名刺を渡す)」


由梨も順番を待つが貰えず、拗ねた感じに。


蝶子「主任さんの代わり? あいつ、とうとう降りたの」

千歳「いえ、掛井のサポートで。次の給油には失礼します」

蝶子「そんなこと言わないで、あいつに失礼させちゃえば?」

千歳「でも、地球に仕事を残して来てますので……。あの、船医の椿先生でしょうか」

蝶子「はい、そうですよ」

千歳「先生のお部屋、ベッドがひとつ余分にあると聞いてます。そちらでお世話になるので、よろしくお願いします(礼)。あ、いけない。(紙袋から薄型の箱を取り出す)これ、主任に渡すように言われてたんだ。私、掛井に用がありますので、これで」


礼をして立ち去る。
ソファに乱暴に腰を下ろす蝶子。


由梨「(真似する)『掛井に用がありますので』、だってぇー。何かぁ、頑張っちゃってる人だねぇ」

蝶子「お役所なんて、どっから切ってもあんなもんよ、お高く留まっちゃって。あーあ、あんなのが次の給油まで……、四日もいるのかぁ」

由梨「主任さんの代わりに残れなんて言ったくせに」

蝶子「役職ついてるクセにこっちに気ィ遣って『いい人』ぶってるヤツより、いかにも偉そうな『お役所サマ』の方がビジネスライクにやれそうじゃない」

由梨「何言ってんの。先生だってお役所サマでしょお?」

蝶子「(キッパリ)違う。一緒にしないで」

由梨「……(驚いている)」

蝶子「(ごまかすように)あたしはただの契約医師。下っ端の請け負いよ。あいつら公務員みたいにいい給料貰ってないからね」

由梨「ふーん。先生偉そうなのに、あっちの方がもっと偉いんだ」

蝶子「偉そうなのと偉いのは違うでしょ。本当に偉いヤツほど、いい人ぶった顔が上手いけどね」

由梨「……それはぁ、あたしのおじーちゃんのこと?」


見詰め合って沈黙。
蝶子の方から目を逸らす。


蝶子「そういう意味じゃないよ」

由梨「(わざと明るく)いーのいーの。今、日本がこんな風になってるのって、おじーちゃんのせいだもん。毒ガステロだかなんだか知らないけど、危ないからってお金取って日本国民を宇宙に放り出すなんて、『ザイゲンカクホセイサク(財源確保政策)』って言われてもしょーがないよねっ。大体、おじーちゃんのせいであたしどれだけイジメられたと思う? 毎日毎日、教科書だの体操着だの上履きだの、すーぐなくなるし、家の前には報道屋さんが陣取っててピザも取れないんだよ? (マイクを取り出して)とにかくもう、学校や家には帰りたくな――いっ!! (様子を覗う)……って、知らない?」

蝶子「いや、親父さんがよく聴いてた」

由梨「へえー(嬉)。ウチもおじいちゃんが好きだったよ。やっぱ流行ってたんだね」

蝶子「そうね。……まあでも、あんたのおじーちゃんは、危険なのに地球に残ったじゃない」

由梨「それが今は、余計に怪しいって言われてるんでしょ。個人でシェルター持ってるフユーソー(富裕層)は残ってて、ホントは逃げなくても大丈夫だって分かってるからそうしてるって。ネットで見たよ」

蝶子「国民から結構な金額巻き上げてここまで大掛かりなことして、『実は勘違いでしたー』なんて、総理にメリットがないでしょ。実際、あの時は支持率かなり落ちたんだし。それでもやらなきゃいけなかったんじゃないの。総理ひとりのせいじゃないよ」

由梨「……慰めてる?」

蝶子「ううん。一般論」


二人、地球を見つめる。


由梨「……帰れるのかな」

蝶子「(本気で驚く)帰りたいんだ? 家もおじーちゃんも大ッ嫌いなのに?」

由梨「嫌いじゃないよ。説明しても周りが全然おじーちゃんのこと分かってくんないから、何か腹立っちゃって……。それに、ほら、来月、成人式だし」


蝶子、懐かしそうに笑う。


由梨「何?」

蝶子「ん、ちょっと懐かしくて。成人式って、式なんかどーでもいいんだけど、友達と会いたくて行ったなあ」

由梨「先生の時代って、ハタチ成人?」

蝶子「(苦笑)……うん、ハタチで、成人」

由梨「ハタチまで待つのってかったるくなかった? 今みたいに18歳で、高校出る時に成人の方が、分かりやすいじゃない」

蝶子「んー、分かりやすいけど……。でも、18でオトナって言われたら、早いかなぁ」

由梨「そお?」

蝶子「90年以上生きるのに、18年しか子供でいられない……」

由梨「他の動物に比べたらよっぽど長いよ?」

蝶子「そうか。……そうね」

由梨「先生の親って、何してる人?」

蝶子「いない、二人とも」

由梨「死んじゃったの?」

蝶子「……(苦笑)」

由梨「ごめんなさい」

蝶子「いいよ、気にしなくて」

由梨「でも、あたしと一緒だね。あたしもおじーちゃんしかいないし」

蝶子「由梨」

由梨「ん?」

蝶子「あんたのさ……」


まひる、入ってくる。


まひる「由梨さん、パソコン、コールされてるよ。今日の授業は出席しなきゃって言ってなかった?」

由梨「あ、ヤバ! 先生、じゃあまたね!」

蝶子「ちょっと、健康診断」

由梨「問題ナイナイ!」


由梨、出て行く。


まひる「彼女もどこか?」

蝶子「え、ああ……。彼女、乗船前に受けてないのよ。一度は診ておかないとね」

まひる「それで書類は通ったんですか?」

蝶子「総理のお孫サマだもの」

まひる「だったらもっといい船に乗ればよかったのに」

蝶子「♪夜の校舎窓ガラス壊して回った〜♪ ってね。彼女なりの抵抗なんじゃないの?」

まひる「何ですか? その歌」

蝶子「(上機嫌)うん? 知らないの? 尾崎豊」

まひる「ああ、懐メロ」

蝶子「(少しカチンときている)……調子はどう?」

まひる「あまり良くないようです。診ていただきたいので、先生の部屋にお邪魔していいでしょうか」

蝶子「いいわよ。あ、そうだ。あたし、今日から主任さんの部下と同室なんだよね」

まひる「え」

蝶子「大丈夫、診察中は出て貰うから。行きましょう」

まひる「よろしくお願いします」

蝶子「あ、言っとくけど、尾崎豊は懐メロじゃないから。永遠に青春だから」


蝶子、足早に出て行く。


まひる「……どちらでもいいです」


まひる、出て行く。
暗転。

照明が入るとコクピットに永介がいて、地球と通信している。


永介「……待って下さい。そんな話、私は聞いてません。それはッ、……ええ、ですが、それとこれとは話が違いすぎます。そんなこととても私の口から……。課長、このこと、市長は何とおっしゃってるんですか。大切な市民の命を……。……総理が? そんなバカな、この船には総理のお孫さんも乗ってるんですよ。課長、待って下さい、課長!!」


通信の途切れる音。


永介「……そんな……。それじゃあ、この船は……」


暗転。
オルゴールの『アマリリス』が流れる。


三日後。
デッキで談笑している、久市、まひる、善、千歳。


千歳「でも、あっという間ですね。もう明日には船を降りるなんて、少し残念な気がします」

善「ナンなら、そのまま乗ってくか? 俺があんたの代わりに地球で面倒くせぇ事務仕事してやるよ」

千歳「そんな、誰にでも出来る仕事じゃありませんから」

善「……(怒)。そ、そうだな、エリートさんだもんな」

千歳「私、子供の頃からずっと宇宙でお仕事がしたかったんです。今の境遇は皆さんには確かにお気の毒なことなんですが、NASAに行けなかった私が市役所に勤めて、まさかそこで宇宙に関わるお仕事が出来るなんて夢のようで……」

善「そりゃ、よござんしたねぇ。憧れのお仕事でいい給料貰って米まで支給されんだもんな。特権階級ってヤツは羨ましいね」

千歳「ええ、誇りを持って仕事をしています(陶酔)」

久市「何ひとつ否定しなかった……」

善「ったく、こいつと話してるとモヤモヤすんなぁ」

まひる「盗んだバイクで走ってみたらどうでしょう」

善「あん?」

まひる「すいません。洗脳が効いてるみたいで」

久市「そういえば、今日はナイルさんを見掛けませんけど」

まひる「まあ、ちょっと」

善「飲みすぎて、まだ寝てんじゃないのか」

まひる「……(善を見る)」

善「お、何だよ」

まひる「見たように言わないで下さい」

善「じゃあ何で朝も昼もメシ食わないで、部屋にこもってんだよ」

まひる「……(席を立つ)」

久市「まひるさん」

まひる「少し気分が悪いので、部屋にいます」

久市「送っていきます」

まひる「結構です」


まひる、立ち去る。


千歳「あらあら」

久市「善さん〜」

善「え、俺悪いか? 冗談だろ。これくらいなんだよ。かーっ、冗談のひとつも言えねぇのか、ここは」

久市「善さんの冗談は本気っぽすぎるんです」

善「だってよ、あの女なら、バーボン、ラッパ(飲み)で行きそうだろ」

千歳「あ、ちょっと分かります」

善「なあ」

久市「……あれ、でも、ナイルさんがお酒飲んでるの、見たことないですよ」

善「え」

久市「まひるさんの誕生日パーティーの時も炭酸水飲んでたし……。善さんなんて何もなくても、寝起きでも飲んでますけど、ナイルさんは少なくとも、僕らの見えるところではお酒を口にしてません」

善「……そう、だったか?」


チャイムの音。


千歳「……不思議ですね」


二人、千歳を見ている。


千歳「いえ。ここは時間の概念があやふやな筈なのに、学校の授業は地球との通信で時間通りにやるし、食事も朝昼晩ってなってるじゃないですか。皆さん、『朝』に起きて『夜』に寝ますもんね」

久市「そうですね。何ていうか……、結局身についてるんですよ、地球での生活が」

善「朝っぱらのビールに罪悪感もあるしな」

久市「ありますか?」

善「ま、ちこっとだけ」


授業を終えた、重文、由梨入ってくる。


由梨「あ〜、お腹空いたぁ」

重文「僕もです。あ、おやつ何かあります?」

善「いや、ない」

千歳「すいません、いただいてしまいました」

久市「残念だったねぇ」

由梨「ええ〜。ちょっとくらい残しといてよ。(善と久市に)だからモテないんだから。(千歳に)あんたも、25(歳)超えたら簡単に痩せないんだからねっ」

千歳「なっ……!」

重文「あ〜。ないとなると、余計にお腹が……。ずっと数式を見てたんで、ブドウ糖がほしい……」

由梨「あたしも! ブドウ食べたーい!」

重文「や、ブドウじゃなくて」

鈴子の声「ブドウはないけど、お茶にしないかい?」


鈴子、入ってくる。
皿に山盛りのマッシュポテトをテーブルに置く。
一堂、うんざり顔。


由梨「鈴子さぁん」

重文「僕、甘いものがいいです〜」

鈴子「はいはい、任しとき!」


一旦引っ込み、今度は両手にスイートポテト、ずんだポテトを持ってくる。
一堂、唖然。
テーブルに三種のポテトが並ぶ。


鈴子「これがミルク入り滑らかマッシュ。こっちはスイートポテト」

久市「この緑は……」

善「いよいよ、何ぶちこみやがった。エイリアンのゲロじゃねぇだろうな」

鈴子「失礼ね、美味しいのよ〜(不敵な笑み)」

善「だから何なんだよ」


下手から爆発音。(揺れを感じる)
全員、そちらを見る。


千歳「……何? 今の」

重文「何か……、爆発したような」

鈴子「爆発!? この船が!?」

由梨「爆発って何よ!」

重文「僕に言われても」

善「落ち着け! 全員、向こうの壁際に寄って。早く!」


全員、移動。
下手を覗う善。


由梨「何があったのよぅ」

善「分からん。何があったのか見てくるから、お前らはここにいろ。(千歳に)姉ちゃん、あんたは主任さん呼んで来い」

千歳「は、はい!」


千歳、走って行く。


善「バアさん、あんたは地球に通信入れて」

鈴子「誰がバアさんだ? あんたの方が年は上だよ」

善「ああ……(面倒くさい)、三田島さん、頼む」

鈴子「あたしが?」

善「一般人より、あんたのIDがあった方が早い。使い方が分からなきゃ楠田に聞け」


善、出て行く。
残った面々はそれぞれに顔を見合わせる。


鈴子「……重ちゃん、教えて」

重文「でも、何も分かってないのに通信しても……。主任さんが来るまで待った方がいいんじゃ」

由梨「でも、主任さん、風邪引いてるんでしょ? もう、えっと……。二、三日見てないよ」

久市「お見舞いに行ったんですけど、移ったらいけないからって、ドアを開けて貰えませんでした。凄く疲れた声で……」

鈴子「食事持ってっても殆ど手、つけてなかったからね」


まひる、現れる。


まひる「何だったんですか、さっきの音」

鈴子「こっち、早くこっちおいで」

久市「怪我はありませんか」

まひる「ええ」

重文「今、大倉さんが調査に行ってます。松山さんが主任さんを呼びに行ってて……。報告待ちですね。ナイルさんは?」

まひる「あ……、頭痛がするらしくて、寝てます」

由梨「衛星とかにぶつかったんじゃないの」

重文「お互いの軌道は決まってるから、簡単に接触なんかしないよ」

由梨「じゃあ何よぉ」

重文「分かんないよ」

久市「そうだ、椿先生は」

由梨「そういえば見てない」

久市「様子を見に行った方がいいんじゃ……」

まひる「大丈夫です」

久市「え?」

まひる「姉と一緒にいます。診察をして貰ったので」

重文「まとまっておいた方がいい。呼んで来ます」

まひる「(焦る)ダメです」

重文「?」

まひる「姉は、薬を飲んで寝てますから」

重文「女性一人くらい運べますよ。そこのソファに寝て貰いましょう」

まひる「ダメです!」

重文「……まひるさん?」

まひる「私が行って来ます」

久市「まひるさん!」


まひる、立ち去る。


由梨「何か変じゃなかった?」

鈴子「そうだね……」

後半へGO!

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